2020年の東京五輪を前に、バトルが起こっているのは国立競技場の建設問題だけではない。五輪をきっかけに、東京23区内の「領土紛争」が激化しているのだ。
争っているのは東京都の江東区と大田区。問題の島の名は「中央防波堤埋立地」という。両区の中間に位置するこの島は、もともと廃棄物処分場として1973年に埋め立てが始まり、長らく帰属未定だった。ところが近年、コンテナ輸送として利用価値が高まったことから、両区の「領有権争い」に発展した。
本誌は過去にもその紛争を取り上げてきたが、その対立がピークに達している。この島が東京五輪のボートとカヌーの競技予定地に選ばれ、両区にとって「生命線」というべき領土となったからだ。
先手を打ったのは、江東区だった。広報紙『こうとう区報』(2015年8月21日発行)の1面で「2020年東京オリンピック競技会場決定」と報じて江東区内で会場になる場所を紹介しているが、〈中央防波堤埋立地は江東区に含めています〉と記載し、ボートとカヌー、そして馬術を江東区で開催される競技に含めたのだ。
それから半年ほど冷戦状態が続いていた今年3月8日、大田区の松原忠義区長が自ら江東区役所に出向いて山崎孝明・江東区長を訪問し電撃会談が実現。「東京五輪までに帰属問題を解決するために協議しよう」という“歴史的合意”を取りつけた……かに思われた。
それからわずか2週間後、今度は大田区が3月25日に行なわれた区議会本会議で、「大田区への全島帰属」を求める決議を全会一致で採択したのだ。
トップ会談を袖にされた格好の江東区・山崎区長は、その後の区議会で、「区長同士の合意を破るものだ」と憤慨した。区議会も「向こうは区長と区議会が全く逆の動きをしていて理解に苦しむ。江東区長は大田区議会に舐められているのでは?」(区議会議員の米沢和裕氏)とヒートアップ。
一方の大田区も「区議会の採択は全島帰属させるという“意思表明”でしょう。今後は4月以降の協議の進展次第です」(政策研究担当課長)と受けて立つ構えだ。
※週刊ポスト2016年4月22日号