コラム

原油価格低迷で中東マネーが日本株を投げ売りするメカニズム

 2016年の世界の株式市場は原油価格に翻弄されている。それと密接に関係するオイルマネーの動向についてパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表取締役の宮島秀直氏が解説する。

 * * *
 世界の金融市場を翻弄しているものの一つに、原油価格がある。1月下旬、1バレル=20ドル台まで急落した後、一進一退を続けているが、OPEC(石油輸出国機構)を始めとする主要産油国に減産する気配がないことから、予断を許さない状況が続いている。

 よく、原油価格低下は、先進国の中では日本に最も恩恵がある、という論調が見られるが、外国人投資家はそうは捉えていない。逆に、現状の原油安で最も警戒すべき国は日本だと見ている。確かに原油依存度が高く、一見、原油安のメリットは高そうだ。

 実際、国内の化学や素材セクターの企業業績も原油安で伸びている。だが、外国人投資家が注目しているのは、原油の輸入先である。日本はサウジアラビアからの輸入が突出しているからだ。

 すでに、サウジアラビアとイランは国交断絶の状態にある。もし、交戦状態に突入した場合、原油の供給が急減する可能性がある。外国人投資家はその可能性を読み取っている。地政学的なリスクが最も高いのは日本、というわけだ。

 原油安は、当初、中国を始めとした世界経済成長の急減速による需要急減や、米国のシェールガス対OPECの増産合戦が、おもな要因となっていた。それが、欧米のイランに対する経済制裁の解除により、サウジアラビアVSイランの増産合戦に移行している。

 しかも、そこには宗教的および政治的対立が絡み、増産合戦による原油安は、この対立の深刻化を示しているとみることができる。原油安が進行すると、外国人投資家、おもに指数先物売買を得意とするCTA(商品投資顧問業者)勢が日本株に売りを浴びせるのは、こうした背景がある。

 原油安にまつわる報道の誤りはもう一つある。アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなど、巨額の政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)を運用する産油国が、原油安によって国の財政収支が悪化したため、保有株式の大量売却に動いている、というものだ。現実には、売却は出ているものの、それはわずかで本格的な売りには至っていない。

 その証拠として、中東の外国人投資家が投資対象とする「シャリアS&P500指数」、「シャリア日本株指数」が、S&P500や日経225といったベンチマークとほぼ同じ動きをしていることが挙げられる。もし、中東の政府系ファンドが大量に売りを出していれば、日米のシャリフ指数はベンチマークを大幅に下回っているはずだ。

 ただし、まだ本格的な売りを出していないということは、売り圧力が温存されていることを意味する。推計では、サウジアラビアの政府系ファンドは日本株を2兆4000億円、UAEは1兆8000億円、それぞれ保有している。原油価格が一段安となれば、この売りが出てくる可能性がある。

 一つの目安として、1バレル=20ドル台が継続すると可能性が高まるとみられる。そのときは、CTAを始めとしたヘッジファンドの売りに、政府系ファンドの売却が重なることになる。

※マネーポスト2016年春号

関連キーワード

関連記事

トピックス

”シカ発言”を受けて、日テレのニュース番組がまさかの事態になっている(時事通信フォト)
《日テレ“検証番組”が大炎上》「もはやネットリンチ」高市早苗の“シカ発言”で擁護派が過激化 日本テレビを〈仕込みの役者がインタビュー〉〈偏向報道〉と批判 関係者は「事実無根」とバッサリ
NEWSポストセブン
たばこ祭りに参加した真矢と妻の石黒彩
《杖と車椅子で10メートルの距離を慎重に…》脳腫瘍のLUNA SEA・真矢が元モー娘。の妻と夫婦で地元祭りで“集合写真”に込めた想い
NEWSポストセブン
"外国人シカ暴行発言”が波紋を呼んでいる──(時事通信フォト)
「高市さんは1000年以上シカと生きてきた奈良市民ではない」高市早苗氏の“シカ愛国発言”に生粋の地元民が物申す「奈良のシカは野生」「むしろシカに襲われた観光客が緊急搬送も」
NEWSポストセブン
「めちゃくちゃ心理テストが好き」な若槻千夏
若槻千夏は「めちゃくちゃ心理テストが好き」占いとはどこが違うのか?臨床心理士が分析「人は最善の答えが欲しくなる」 
NEWSポストセブン
直面する新たな課題に宮内庁はどう対応するのか(写真/共同通信社)
《応募条件に「愛子さまが好きな方」》秋篠宮一家を批判する「皇室動画編集バイト」が求人サイトに多数掲載 直面する新しい課題に、宮内庁に求められる早急な対応
週刊ポスト
ポストシーズンに臨んでいる大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平、ポストシーズンで自宅の“警戒レベル”が上昇中 有名選手の留守宅が狙われる強盗事件が続出 遠征時には警備員を増員、パトカーが出動するなど地元警察と連携 
女性セブン
「週刊文春」の報道により小泉進次郎(時事通信フォト)
《小泉進次郎にステマ疑惑、勝手に離党騒動…》「出馬を取りやめたほうがいい」永田町から噴出する“進次郎おろし”と、小泉陣営の“ズレた問題意識”「そもそも緩い党員制度に問題ある」
NEWSポストセブン
懲役5年が言い渡されたハッシー
《人気棋士ハッシーに懲役5年判決》何度も「殺してやる」と呟き…元妻が証言した“クワで襲われた一部始終”「今も殺される夢を見る」
NEWSポストセブン
浅香光代さんの稽古場に異変が…
《浅香光代さんの浅草豪邸から内縁夫(91)が姿を消して…》“ミッチー・サッチー騒動”発端となった稽古場が「オフィスルーム」に様変わりしていた
NEWSポストセブン
群馬県前橋市の小川晶市長(42)が部下とラブホテルに訪れていることがわかった(左/共同通信)
【前橋市長のモテすぎ素顔】「ドデカいタケノコもって笑顔ふりまく市長なんて他にいない」「彼女を誰が車で送るかで小競り合い」高齢者まで“メロメロ”にする小川市長の“魅力伝説”
NEWSポストセブン
関係者が語る真美子さんの「意外なドラテク」(getty image/共同通信)
《ポルシェを慣れた手つきで…》真美子さんが大谷翔平を隣に乗せて帰宅、「奥さんが運転というのは珍しい」関係者が語った“意外なドライビングテクニック”
NEWSポストセブン
部下の既婚男性と複数回にわたってラブホテルを訪れていた小川晶市長(写真/共同通信社)
《部下とラブホ通い》前橋市・小川晶市長、県議時代は“前橋の長澤まさみ”と呼ばれ人気 結婚にはまったく興味がなくても「親密なパートナーは常にいる」という素顔 
女性セブン