◆今も描き続けている人はわずか

『コロコロ創刊伝説』連載の話が持ち上がったのは、一昨年の7月。書き溜めていたギャグ漫画は全部ボツになり、ストーリー漫画を描いて欲しいと頼まれる。担当編集者は、コロコロの生き字引であるのむらが適任だと考えたのだ。

「えっ、描かせてくれるの、って思いましたよ。しかも、僕が主人公で、僕の大事な思い出を描かせてもらえる。後は、誰かが描いておかないとコロコロの歴史が消えてしまうという思いもあった。コロコロのことを後世に残したいですから」

 第四話で明かされるヒット作『ゲームセンターあらし』の誕生秘話などは、当時のファンが読めばきっと胸が熱くなるに違いない。『コロコロ創刊伝説』は、2014年10月に創刊した『コロコロアニキ』に連載。第一回作品は、読者アンケートで第二位になった。

 他にも、さまざまな漫画家や編集者のエピソードがふんだんに盛り込まれているが、当事者に掲載の確認を取ると、ほとんどの人が「しんぼちゃんのためなら」と快諾したという。

 のむらと同時期に『コロコロコミック』で描き始めた同業者たちは今、どうしているのだろう。

「名前は言えませんけど、自己破産した人とか、一人や二人じゃないですよ。今も描き続けている人は、ほんのわずかです」

 フリーランスで何十年と生きてきた人たちは、最低限何か一つ、武器を持っているものだ。漫画家でいえば、絵が圧倒的にうまいとか、ストーリーが抜群だとか。そこへいくとのむらの武器はなんだったのか。

「絵は下手だしね……。三つの直じゃないですか。素直、愚直、正直。アシスタントに嘘もつかないですもん。税金はこれだけだよ、って(笑い)」

 この作品をきっかけにテレビなどにも出演したことで、音信不通になっていた娘から久々に食事の誘いのメールが届いた。

「五年前に結婚したんだけど、結婚式、出てないんです。包むお金がなくて……。あんとき、ごめんね、って言いたいね」

 作中で、映画監督のヒッチコックが代表作はと聞かれ「ネクストワン」と答えたエピソードが紹介されている。数十年ぶりの話題作に恵まれたのむらだが、代表作はもちろん「ネクストワン」だ。

【プロフィール】のむら・しんぼ:1955年9月24日、北海道生まれ。函館ラ・サール高卒、立教大文学部は漫画家を志し中退。1978年、『ケンカばんばん』で小学館新人コミック大賞入賞、同時にデビューを飾る(このときに本文中にあるように、担当編集者に「ネクストワン」の話を聞かされる)。1980年に『とどろけ! 一番』がスマッシュヒットし、1985年連載開始の四コマギャグ漫画『つるピカハゲ丸』はアニメ化されるなど大ヒット作に。174cm、72kg、AB型。

■構成/中村計 ■撮影/国府田利光

※週刊ポスト2016年4月22日号

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