かつてジャパン・バッシャーとして知られた米国人クライド・プレストウィッツ氏(経済戦略研究所所長)が「2050年の日本」は新型の超大国として繁栄すると予測した書『JAPAN RESTORED(日本復興)』を出版し話題となっている。同書では、2050年に「経済成長率4.5%」や「ロボットビジネス世界トップ」といった展望を述べた。こうして、日本の底力を称えつつも、我々が克服すべき数々の課題を突きつけた。評論家・日下公人氏は、「著書で示された課題は必ず克服できる」と断言する。
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日本が隆盛を誇っていた1980年代、アメリカの論壇では“弱い日本”を歓迎する「ウィークジャパン派」が幅を利かせていた。超大国・アメリカの地位を脅かす国はたとえ同盟国であっても容認せず、「日本は野心を抱かずアメリカの世界戦略に忠実に貢献すべき」と主張する勢力だ。
ところが、中国の台頭が目立ち始めた1990年代に入ると、今度は「ストロングジャパン派」という知日派の学者、論客が増えてきた。日本の潜在力を確信する彼らは、国際社会において日本が相応の役割を担うことがアメリカの国益に繋がると考えている。
かつて“ジャパン・バッシャー”と呼ばれたプレストウィッツ氏もそうした知日派の一人なのではないか。
『JAPAN RESTORED』では2050年に日本が「新型超大国」になるために克服しなければならない課題として、いくつもの論点を挙げている。その中の一つが「日本人が日本語と英語を話すバイリンガル国家になる」という点だ。
だが、ちょっと待ってほしい。世界で英語が国際語になるのはわかるとしても、そこに日本も含まれるとは限らないと私は考える。それどころか、私は日本語が国際語になるとさえ思っている。世界ではかつて、ギリシャ語やラテン語、フランス語が国際語となった時期があった。「国際語は一瞬で変わる」ものなのだ。
アメリカの言語学者で、言語学会の会長も務めたサミュエル・I・ハヤカワ氏が、「懐に最もドルがたくさん入っている人の話す言葉が国際語である」と語ったように、ギリシャ語やラテン語、フランス語が国際語として使われたのは、それらの国が豊かだったからだ。ならば今後、日本が経済的に発展すれば日本語が国際語になることもありうる。
いや、すでにそうなっているとも言える。アメリカでは「カイゼン」などの“トヨタ語”がたくさん使われているではないか。アメリカの自動車メーカーは日本の自動車生産の技術を学ぶと同時に日本語も学んで帰ったのだ。
プレストウィッツ氏は著書で「日本は医学分野をはじめとして科学技術分野で世界をリードする」と予想しているが、そうであるなら「日本語まじりの英語」が国際語になることも十分考えられる。
※SAPIO2016年5月号