ネットは馬鹿げたクレームを増幅させがち。秋田の新発売アイスクリームを例に、「クレームに対する大人的態度」を大人力コラムニスト・石原壮一郎氏が考えた。
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先日、大手旅行代理店エイチ・アイ・エスが企画した「東大生の美女が機内で隣りに座ってくれる」という企画が、抗議があったということで中止になりました。想像するだけで心浮き立つ企画だったのに残念です。早々に腰砕けになって中止を決めたエイチ・アイ・エスはさておき、せっかくヤル気になっていた「東大美女図鑑」のモデルを務めている女子大生のみなさんには、ひじょうに気の毒な展開でした。
ことほど左様に、世の中はどんどん窮屈になっています。ネットの最大の問題点は、どうでもいいマヌケな意見を大きく増幅してしまうところ。それは、どうでもいいマヌケな抗議を受ける側にとっても、どうでもいいマヌケな抗議ができてしまうことでチンケな承認欲求を肥大させてしまう当人たちにとっても、大きな悲劇だと言えるでしょう。
そんな状況の中、秋田県で物議をかもしそうなアイスクリームが発売されました。秋田市のノリット・ジャポンが一年がかりで開発し、県産の牛乳を使って作った自慢の逸品で、商品名は「UMAMY(ウマミー)アイスクリーム」。それはいいんですけど、なんと「オヤジアイスクリーム」という大胆不敵な愛称がつけられています。開発・製造に携わるスタッフが、40~50代の男性であることにちなんでいるとか。
杞憂かもしれませんが、こういうご時勢だけに、どうでもいいマヌケな抗議を受けてしまわないか心配です。「中年男性を意味する『オヤジ』を売りにするのは、性の商品化ではないのか」「陰で『オヤジ』を支えているオバサンを無視して『オヤジ』だけを前面に出すのは、男女差別ではないのか」などなど。
まさか誰もそんなことは……という気はしますが、ネットで抗議をしてくる人のマヌケさは常人の想像をはるかに超えています。どうつつかれて炎上するかわかりません。備えあれば憂いなし。ジェンダーの問題にかみつくことで「賢いオレ」「賢い私」という錯覚を得たい人たちがなんか言い出したら、「オヤジアイスクリーム」としてはどう反論すればいいのか。たいへん大きなお世話ですが、いくつかのパターンを考えてみましょう。
「オヤジアイスクリーム」を大々的に取り上げたネットメディア「秋田経済新聞」の記事によると、社長はその特徴について「県産の朝採れ生乳をぜいたくに使った。コクがありながらスッキリした後味で食後にのどが渇きにくく、さわやかで食べ飽きない自然な甘さの商品に仕上がった」と語ったそうです。ちなみにラインナップは、「ミルク」(280円)、「フロマージュブラン」「比内地鶏たまご」(各300円)の3種。
たとえば「オヤジのイメージと『コクがありながらスッキリした後味』という特徴を重ね合わせるのは、一種のセクハラではないか」と言われたとしましょう。その場合は「セクハラは当人が不快に感じるかどうかがポイント」という論拠を前面に出します。
「オヤジの多くは、コクがありながらスッキリした後味の乳製品と結び付けてもらえるなんて、そんな光栄なことはないと思うでしょう。よって、セクハラには当たらないと考えます」
紛らわしい言い方をしましたけど、もちろん人柄とか印象とかの話です。ただし、この商品が大ヒットして「オヤジアイスクリーム」が一般的な言葉になったときに、女性に対して「俺のオヤジアイスクリームを……云々」という発言をしたら、それは立派なセクハラなので気を付けましょう。