なんとか追及を逃れようと政府・日銀が必死になった結果、議論はどんどんおかしな方向に展開している。
「特段、異常な修士論文ではなかった」──。
5月19日の参院財政金融委員会で自民党の長峯誠・参院議員はそう言って、「日銀のショーンK」こと櫻井眞・審議委員を弁護した。
本誌5月20日号では、日銀がHPで櫻井氏の経歴を〈東京大学大学院経済学研究科博士課程修了〉としていたにもかかわらず、同氏が博士号を取得していなかったなどの経歴詐称疑惑を報じた。
なかでも話題になったのが、櫻井氏が東大に提出した修士論文が400字詰め原稿用紙でわずか「4枚」だったことだ。
そんな人物が金融政策の舵取りを担えるのかという批判をかわすため、火消し役になったのが長峯氏なのだが、そのロジックには苦労のあとがにじみ出ていた。委員会で長峯氏は、
「私は東大に行き、当時の修士論文を全部確認した」
と高らかに宣言。櫻井氏と同じ年(1972年)に提出された23人分の修論枚数を自ら数え上げ、一覧表に整理したのである。議員自ら何ともご苦労な作業だが、結果は次の通りだったという。
「(修論枚数は)2枚が3名、3枚5名、4枚1名、櫻井氏と同じ5枚(参考文献一覧を含む)が3名。櫻井氏は23人の真ん中あたりにいらっしゃる」
東大紛争直後の混乱期だったため、“短い修論を出した奴は他にもたくさんいた”という論法である。
しかし、フォローすればするほど櫻井氏が「博士号を持っていない上に、修士号もドサクサ紛れに取った」ことが強調されてしまう。ますます審議委員としての適性に疑問が生じかねないのだが……。
他にも櫻井氏は非常勤役員だった経歴を「取締役」と書いていたり、自分が大学に入学した年を1年間違えていたりしたことが発覚し、「就任前に国会に示した経歴には9か所も間違いが指摘されている」(民進党議員)という状況だ。
自分の履歴書さえまともに書けない人物を、なぜ安倍官邸はここまで必死に守ろうとするのか。摩訶不思議である。
※週刊ポスト2016年6月10日号