◆「この“チャンス”を逃すな」
特定抗争指定暴力団は2012年10月の暴対法改正の際に生まれた新しい制度で、各都道府県の公安委員会が、暴力団同士の対立抗争によって市民の命の安全を脅かされる恐れがあると判断した場合に指定される。
「現段階で、六代目山口組が組織的な意志決定のもとに神戸山口組幹部を殺害した証拠はない。それでも警察は両団体壊滅の好機と見て動き出している。
ともに特定抗争指定暴力団とした上で、今回の射殺事件、そしてこれから起きるであろう『返し』について、誰の指示があったのかを明確にし、組織犯罪処罰法などを使って、トップの“使用者責任”を追及していく。もちろんターゲットは六代目山口組の司忍・組長であり、神戸山口組の井上邦雄・組長だ」(同前)
1980年代に山口組と一和会が衝突した「山一抗争」では、警察庁は暴力団の最高幹部を相次いで検挙し、組織の解体を目指す「頂上作戦」を展開した。
金高警察庁長官は、1月に兵庫県警本部を訪れた際、捜査員たちを前に、「県内には両団体の拠点があり、取り締まりの主戦場だ。市民生活の安全確保と双方の弱体化、壊滅に全力を尽くしてほしい」と訓示したのをはじめ、折に触れて「この機を逃すな」と公言してきた。暴力団と警察の関係に詳しいジャーナリスト・伊藤博敏氏が説明する。
「昨年8月に山口組の分裂騒動が勃発して以降、警察側は今回のような命のやり取りがある事件が起きる日に備えてきた。このタイミングで、一気に弱体化させて追い込む。山一抗争の時代と違って、今は『最高幹部の指示があった』という証言一つで殺人教唆を問える制度ができている。暴力団特有のピラミッド構造によって逆にトップの罪が問われやすくなっているのです」
※週刊ポスト2016年6月17日号