柳井氏のように社長に“再登板”する大物経営者は少なくない。キヤノンの御手洗冨士夫氏(80)は2006年に会長に退き、経団連会長に就任したが、その任期を終えた2012年に7歳年下の社長を相談役に退かせ、社長に復帰した。

「創業者・御手洗毅の甥という立場で、後継者と認められる人物がいなかったということでしょう。今年3月にようやく、カメラ畑出身の真栄田雅也氏(63)に社長が交代しましたが、まだCEO(最高経営責任者)の肩書きは御手洗氏のもの。実質的な経営トップは今も変わっていないと考えていいでしょう」(経済ジャーナリスト・福田俊之氏)

 スズキ自動車の鈴木修・会長(86)も、2008年に8年ぶりに社長に復帰した経験を持つ。そこにはやむにやまれぬ事情もあった。福田氏が解説する。

「鈴木修氏は、長男・俊宏氏に経営トップを譲るつもりでしたが、最初に退任した2000年の時点では俊宏氏がまだ40代と社長を任せるには若かった。そこで元経産官僚で娘婿の小野浩孝氏にまずバトンを渡し、そこから長男に継がせていくことを考えていたが、小野氏が52歳の若さで急逝。別の後継社長も健康を崩して退任するというアクシデントが続き、自ら社長復帰することになってしまった」

 その後、修氏はフォルクスワーゲンとの包括提携を進めるなど経営手腕を発揮し、2015年6月に社長を退任。満を持して長男・俊宏氏(57)が新社長に就任した。

 ところが、今年5月には燃費データ不正が発覚。矢面に立ったのはやはり修氏だった。国交省での会見では「法令違反に対する重大さの認識が甘かった」と頭を下げ、今も“経営トップ”であることを印象づけた。今期は会長としての役員賞与も返上して職務に臨むことも発表している。

「修氏の場合、お金よりも自分の会社を愛する気持ちが勝っている。スズキをどん底から育てて伸ばしたんですから当然でしょう。もちろん、“自分よりも優秀な人が出てくれば譲ってもいい”と考えているはずだが、そう思える人が出てこない。結局、生涯現役を貫き、倒れるまで続けるということになるのではないでしょうか」(福田氏)

※週刊ポスト2016年7月8日号

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