第二次安倍政権が、特定秘密保護法、原発再稼働、安全保障法制といった難しい課題を次々と突破してきた原動力は、安倍が「サイレント・マジョリティ」と呼ぶ「非リベラル層」によるところが大きい。

 しかしこの層はそもそも一つのイデオロギーを信奉するグループではない。一口に「改憲勢力」といっても、その内容から方法論に至るまで、正に千差万別、百家争鳴なのである。そしてもう一つ安倍の前に立ちはだかるのが、「国民投票」という壁だ。

 先月のEU離脱をめぐる英国の国民投票は、世界に衝撃を与えた。残留派が多数を占めるものと見て国民投票に踏み切ったキャメロン首相の予想を裏切って離脱派が勝利した結果、地域、世代、階級といったあらゆるカテゴリーで国内の分断が浮き彫りになった。

 内外で大混乱を引き起こした国民投票は議院内閣制という間接民主主義の国で、重要議題を直接民主主義の手法で解決しようとしたやり方そのものが厳しい批判に晒された。

 しかし衆参の審議を経て憲法改正が発議された暁には、国民投票で過半数を獲得しない限り憲法改正は実現しない。さらに機が熟す前に国民投票を行なえば過半数が取れないばかりか、国民の分断という英国の二の舞にもなりかねない。

 英国の国民投票の結果が出た直後、麻生太郎・副総理兼財務相は安倍にこう伝えた。

「喧騒の中で国民投票を進めてはいけないという英国の教訓を踏まえ、憲法調査会での丁寧な議論から始めるという方針を示すべきでしょう」
(文中敬称略。第4回に続く)

【プロフィール】やまぐち・のりゆき/1966年生まれ。フリージャーナリスト・アメリカシンクタンク客員研究員。慶應義塾大学卒業後、TBS入社。以来25年間報道局に。2000年から政治部。2013年からワシントン支局長。2016年5月TBSを退職。著書に『総理』(幻冬舎刊)。

※週刊ポスト2016年7月22・29日号

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