2/3という遠かったはずの目標が目の前まで来た安倍にとって、憲法改正はもはや、リベラル護憲派との戦いではなくなりつつある。いわゆる「改憲勢力」内部の不統一にこそ、最も深刻なリスクが内在している。さらに、衆参両院で憲法改正の発議を勝ち得た先には、国民投票という最後の難関が控えている。
安倍は消費税先送りと衆議院解散の是非を巡って麻生太郎・副総理兼財務相と対峙した5月30日、こう漏らしたという。
「憲法改正はもちろん悲願だが、どう実現できるか、心が揺れないと言ったら嘘になる」
もし安倍が憲法改正に向けて逡巡したり、決断を先送りしたりすれば、今度は「非リベラル層」の中の「保守層」が黙っていない。安倍を強く支持してきたコア層の失望は、政権の求心力を大きく毀損するだろう。安倍は自著『新しい国へ』の中でこう述べている。
「初当選して以来、わたしはつねに『闘う政治家』でありたいと願っている」
憲法改正という究極の目標に向けて安倍はどう闘うのか、あるいは闘うのをやめてしまうのか。総裁任期終了まで2年余り、残された時間はどんどん少なくなっている。
(文中敬称略。了)
【プロフィール】やまぐち・のりゆき/1966年生まれ。フリージャーナリスト・アメリカシンクタンク客員研究員。慶應義塾大学卒業後、TBS入社。以来25年間報道局に。2000年から政治部。2013年からワシントン支局長。2016年5月TBSを退職。著書に『総理』(幻冬舎刊)。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号