その可能性は決して小さくないと思う。シャープは有機ELなどの液晶・パネル技術のみならず、空気を浄化する「プラズマクラスター」、健康志向の調理家電ブランド「ヘルシオ」、停電時も蓄電池と太陽光発電システムを組み合わせて冷蔵だけなら約10日間以上(冷凍使用の場合は約4日間以上)冷やせる冷蔵庫といった独自技術を開発する力をけっこう持っているからだ。
最近のシャープには意外なヒット商品もある。世界初の蚊取り機能付き空気清浄機「蚊取空清」だ。薬剤を使わず、蚊の習性を利用してUV(紫外線)ライトでおびき寄せて吸引し、粘着シートで捕らえるという仕組みで、開発期間は6年。東南アジアで大ヒットしたのを受けて、国内でもこの春から発売を開始している。実勢価格が4万円超と高額なのに、空気清浄機売れ筋ランキングで上位をキープしている。
あるいは、1年前の本連載で提案したように、ワイヤレス電力・データ転送技術を活用した「ワイヤレス・シャープ」構想などに取り組むのも面白いだろう。
実は今回のシャープの役員人事で“技術重視”を象徴する動きがあった。郭会長が崇拝している日本人技術者、中川威雄・ファインテック会長が取締役に就任したのである。
中川氏は、もともと東京大学の教授で、金型やプレス加工の第一人者だ。定年後、鴻海の中国子会社・富士康科技集団(フォックスコン)の技術顧問を務めてきた。この中川氏が鏡面研磨の小林研業など優れた技術を持っている日本企業を見つけてきて鴻海に紹介し、初期の頃のiPhoneやiPodの筐体背面の美しい光沢に活用してきたのである。
郭会長が進めるこうした改革がシャープ再生のカギになるかもしれない。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号