ライフ

永六輔さんと伊勢うどんと私 太く長くやわらかなつながり

永六輔さん(左)と石原氏

 先日亡くなられた永六輔さんは、先入観にとらわれることなく地方の文化に温かい眼差しを向ける人だった。永さんに取材経験がある大人力コラムニストの石原壮一郎氏がその想い出を語る。

 * * *
 たくさんの大切な仕事を成し遂げた永六輔さんが、7月7日、83歳で「大往生」なさいました。心よりご冥福をお祈りいたします。放送作家や作詞家、そしてタレントとしての活躍は言うまでもなく、日本各地に伝わる文化や風習を大切にし、見過ごされてきた価値に光を当て続けてきました。永さんの存在がなかったら、日本はもっともっと薄っぺらい国になっていたでしょう。

 永さんは「尺貫法」をはじめ、地方の伝統芸能やお祭りなど、いろんなものを絶滅の危機から救いました。じつは、今では伊勢名物として盤石の地位を築いている伊勢うどんも、そのひとつです。昭和40年代半ばに永さんが伊勢うどんに出合い、とても気に入ってエッセイやラジオで何度も紹介してくれました。そのおかげで、伊勢で愛されてきた独特なうどんの存在が、初めて全国に知られるようになります。

 僭越ながら伊勢うどん大使を務めさせてもらっている私としては、50年ほど前に永さんがそうやって切り開いた道のはしっこを歩かせてもらっていて、こんな光栄なことはありません。じつは3年前、伊勢うどんをテーマにした本を作っているとき、永さんに伊勢うどんについてインタビューさせてもらうという幸せな機会をいただきました。

 インタビューの一番の目的は「伊勢うどんの名付け親は永六輔である」という説の真偽を本人に確かめること。もともと地元では単に「うどん」「すうどん」と呼ばれていましたが、観光客が誤解しないように区別したほうがいいのではということで、昭和40年代後半から「伊勢うどん」と言われるようになります。

 永さんが伊勢でうどんを食べて「これは、ここにしかないうどんだ。伊勢うどんだ!」と言ったことから「伊勢うどん」という名前になった――。そんな説が地元では広まっていました。しかし、関係者からは「いやあ、もっと前からそういう呼び方はあったけどなあ」という声も。これは本人に伺ってみるしかない、と思った次第です。

 伊勢うどんとの出合いを話してもらったりしつつ、場があったまってきたあたりで、勇気を出して「伊勢には、永さんが『伊勢うどん』の名付け親という説がありますが」と尋ねたところ、永さんは高らかに笑って、こう答えてくれました。

「ハハハ! そんなわけないよ。伊勢うどんという呼び名は僕が伊勢で食べたときにはすでにあったからね。へえー、そういう説があるの。ハハハ、困っちゃうなあ」

 どうやら「名付け親」ではなかったようです。しかし、伊勢うどんの素晴らしさをきちんと評価し、全国に広めてくれた大恩人であることは確か。そんな永さんに敬意を表する気持ちや感謝の気持ちが、そういう説を生んだに違いありません。

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン