ライフ

飛行機から落ちたアフリカ青年が抱いた欧州への憧れ

『空から降ってきた男 アフリカ「奴隷社会」の悲劇』 小倉孝保著

【書評】『空から降ってきた男 アフリカ「奴隷社会」の悲劇』/小倉孝保著/新潮社/本体1500円+税

【著者】小倉孝保(おぐら・たかやす) 1964年滋賀県生まれ。関西学院大学卒業後、毎日新聞社入社。2015年より外信部長。『柔の恩人「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館ノンフィクション大賞、小学館)など著書多数。

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 2012年9月のある日、ロンドン西部の路上で若い黒人男性の遺体が発見された。捜査の結果、男性は、アフリカのアンゴラを飛び立った旅客機がヒースロー空港に着陸する態勢に入り、車輪を出すために開いた格納部から落下したことがわかり、残された携帯電話の記録からモザンビーク出身であることが判明した。イギリスは移民問題で国論が二分していた。

〈彼らが、命と引き替えにしてまでも手に入れたいものとは何なのだろう〉〈一つのケースを掘り下げ、一人の人間を描くことで、この問題はきっと、実態を伴った現実感覚のある課題として浮かび上がってくるはずだ〉。当時、新聞社の特派員としてロンドンに駐在していた著者は、そう直感する。

 著者は、男性(マタダ)がアンゴラを発つ直前まで連絡を取っていたスイス在住の白人イスラム教徒の女性(ジェシカ)の所在を突き止め、インタビューする。ジェシカはスイスで知りあったカメルーンの大富豪の子息と結婚し、南アフリカで暮らすが、物質的な富以外に何もない空虚さに心が渇き、夫の一族や使用人たちの理不尽な言動にも悩まされていた。そんな心を癒やしてくれたのが、隣国モザンビークから出稼ぎに来ていた不法移民の使用人マタダだった。

 具体的なことは本書に譲るが、幼少期の数年間、両親とともにサハラ砂漠を放浪したことに始まるジェシカの人生も数奇で、他民族が混在する社会で生きる人間のアイデンティティのあり方や、白人国家と、それが植民地支配したアフリカとの関係の持ち方について、多くのことを示唆してくれる。

関連記事

トピックス

橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
フレルスフ大統領夫妻との歓迎式典に出席するため、スフバートル広場に到着された両陛下。民族衣装を着た子供たちから渡された花束を、笑顔で受け取られた(8日)
《戦後80年慰霊の旅》天皇皇后両陛下、7泊8日でモンゴルへ “こんどこそふたりで”…そんな願いが実を結ぶ 歓迎式典では元横綱が揃い踏み
女性セブン
犯行の理由は「〈あいつウザい〉などのメッセージに腹を立てたから」だという
「凛みたいな女はいない。可愛くて仕方ないんだ…」事件3週間前に“両手ナイフ男”が吐露した被害者・伊藤凛さん(26)への“異常な執着心”《ガールズバー店員2人刺殺》
NEWSポストセブン