国内

高齢者は全員施設に入ることを嫌がると思ったほうがいい

 2025年には65才以上の高齢者が約3600万人、認知症の患者が700万人を超えるといわれる超高齢化社会を生きる私たち。ほとんどの人が直面せざるを得ない介護が今、仕事だけではなく、当たり前の生活さえも奪っていく現実がそこにはある。

 7月3日に放送されたNHKスペシャル『私は家族を殺した“介護殺人”当事者たちの告白』は大きな反響を呼んだ。放送終了後には200通を超える視聴者からの声は共感が多く、実際に介護を担っている女性からで「他人事とは思えない」と切実な思いを語っていた。多くの経験者は「介護はジェットコースター」と口をそろえる。容体が急変して悪化する時もあれば、穏やかで落ち着く時期もあるからだ。

 ノンフィクション作家の久田恵さん(68才)の母は懸命のリハビリで、介助すればトイレに行けるまで回復していたが、介護5年目を迎えた年、年齢による衰えがリハビリによる回復を上回り、車椅子から立ち上がれなくなった。

 ベッドでは寝たきり状態で右半身がマヒし、寝返りもできない。失語症で言葉を発せられず、真夜中に悲鳴をあげることもあった。

 そんなある夜、事件が起きた。胸騒ぎのした久田さんが様子を見にいくと、母が寝間着の紐を首に回し、自死しようとしていたのだ。この時、久田さんは涙ながらにこう訴えた。

「気持ちはわかるけど、息子はまだ小さい。お母さんが死んじゃったら、心の傷から立ち直れない。私と息子を助けると思って、どうか死なないで」

 必死の呼びかけに母は紐から手を離した。しかし、この夜から久田さんは罪悪感に苛まれたと振り返る。

「母のストレスは相当なものだったと思います。私は自分の都合で母に生きることを強いてしまったのだろうかと苦しみました」(久田さん)

 先が見えないつらい介護が続く日々、久田さんは毎朝目覚めたら真っ先に庭のガーデニングを眺めた。芽が伸び、花を咲かす姿が、久田さんのわずかな「希望」になった。

 母が脳血栓で倒れてから10年。父は80才を超え、久田さんと2人でも母を車椅子から抱え上げられなくなった。在宅での介護の限界を感じ、取材で訪れ、お世話になっていた有料老人ホームに頼んで母を入所させることにした。

「母は本当はホームに行きたくなかったと思いますが、最後は納得してくれました。母の介護が生きがいになっていた父は母の入る施設の向かいの自立型ホームに一時入所し、私は両方に歩いていけるアパートに引っ越しました。家族はバラバラになりましたが、介護で追い詰められていた私たちにはベストといえる選択でした」(久田さん)

 2年半のホーム生活後、母は静かに息を引き取った。久田さんのように介護される親の状態が悪化した場合、たとえ24時間つきっきりでも在宅介護には限界がある。その場合、施設への入所も視野に入れなければならない。

 しかも現在は高齢者が高齢者を介護する「老老介護」が増加している。介護が必要な65才以上の高齢者がいる世帯のうち、介護する人も65才以上の世帯の割合は5割を超える。介護を担う人が高齢化すれば、在宅介護を続けることがますます難しくなる。

関連キーワード

トピックス

初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン