乱売にとくに熱くなっていたのはスズキとダイハツ工業だ。とくに2014年はスズキが久しぶりに軽メーカー販売首位への返り咲くチャンスとばかりに執念を燃やしたこともあって、バトルはヒートアップ。ブームと言われはじめた時期ですら180万台前後が適正と言われた軽の販売台数が年間227万台にまで膨れ上がったゆえんである。
ところが、2014年に暦年で首位を奪還したスズキは翌年に入り、乱売をばったりとやめてしまった。
鈴木修会長は「お行儀の悪い売り方はやめる」と宣言。「軽業界全体がお行儀の悪い真似をせざるを得なくなった一番の張本人が突然いい子になる宣言をするなんて」との陰口も飛び出したが、ともかくスズキは乱売から身を引き、軽市場全体の新車販売台数そのものも急速に縮小した。
業界きっての商売人である鈴木修氏が乱売を本当に恒久的にやめるのかということについては懐疑的な見方もある。実は乱売終了宣言を出したのは、これが初めてではないからだ。
リーマンショック前の2006年、軽自動車の販売台数が初めて年間200万台を超えたが、そのときも当時2位で首位を狙うダイハツに対し、何とか首位を防衛しようとするスズキが押し込み販売をやった。鈴木修氏は「お行儀の悪い売り方で年200万台になっただけで、実力値は180万台程度」と言い、翌年2位に後退した。
では、今回の“乱売終息宣言”の意図は何なのか。それは、軽の生命線である下取り価格が乱売によって下落するのを防ぐためという公算が高い。
関東界隈の軽自動車の主戦場のひとつである群馬県の軽専門中古車販売会社の店長は言う。
「軽自動車の魅力は税金や保険の安さだけではありません。実は、それ以上に下取り、買い取り価格の高さがきいているのです。
普通車のコンパクトカーは特別な人気車でもない限り、5年も乗れば下取りはゼロ同然になります。でも、軽自動車は違う。中古車需要が底堅いため、本来の償却年数が過ぎても下取り値は結構出る。また、車検に通って走行可能でありさえすれば、どんなに古くても需要があるということで、気持ち程度でもお金を出せるんですよ」
その軽自動車の中古車相場に異変が起こっている。自動車買取り大手のガリバーをはじめ、多くの中古車業者の販売前線で、軽自動車の販売価格が下落傾向にあるのだ。新車として届け出が行われてから3年以内の高年式車の数が乱売によって異常増殖したのが原因だ。
「高年式車の値段が下がると低年式車への影響も必ず出てくる。値段が大きく変わらないのだったらより新しいのに乗ろうというのが顧客心理ですから、値段を下げざるを得なくなる。すると、軽のメリットである下取り値も下がる。もしそうなれば、新車の軽を買うメリットの半分くらいが失われてしまう。
今ならまだ、供給過剰と価格下落という“デフレスパイラル”に陥るのを防げる。長い目でビジネスを見ると、乱売終息は歓迎ですね」(前出の中古車販売会社店長)