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単一の孔から治療可能となり負担が軽減した腹腔鏡下手術

 副腎や腎臓、腎盂・尿管、膀胱、前立腺など泌尿器の臓器は背中側にあるが、従来の腹腔鏡手術は、わざわざ腹側から腹膜を2度破り、アプローチしていた。これを解消するために開発されたのが、ロボサージャン・ガスレス・シングルポート手術だ。

 副腎、腎臓、腎盂・尿管に関しては脇腹に一円玉程度の小さな孔を一つ開け、腹膜の後ろを通過してアプローチするので、CO2を入れお腹を膨らませる(気腹)必要がなくなった。

 膀胱、前立腺に対しては、下腹に孔を一つ開ける。気腹せず、腹膜も傷つけないため、呼吸器や循環器、消化器系へのリスクも避けることができるようになった。東京医科歯科大学附属病院泌尿器科の木原和徳名誉教授に話を聞いた。

「ロボサージャン・ガスレス・シングルポート手術は、術野を3Dで見るだけでなく、腎臓などでは随時、超音波プローブを当てて、エコー画像も同時にディスプレイに表示します。また、事前に撮影したMRIやCT画像、あるいは作成した臓器の3Dモデルを同時に映し出すことも可能となりました」

 手術室では多くの場合、医師全員が3Dヘッドマウントディスプレイを装着し、それぞれが同じ向きの画像を見ながら手術ができる。他にも従来は開腹して大きな傷が残ることがある腎盂がんの手術では、脇腹に開けた孔と下腹に開けた孔の両方からアプローチして摘出が可能となった。

 腎臓と尿管は脇腹の孔から、膀胱は下腹の孔から取り出す。膀胱がんなどでは、人工的に開けた孔と尿道の双方から器具を入れて行なうハイブリッド手術も開発されている。このように尿道を使用することで、より低侵襲な手術を行なうことができるようになったのだ。

「ロボサージャン・ガスレス・シングルポート手術では、状況に合わせて細かくポートサイズを調節でき、例えば出血などの不測の事態が起こっても、瞬時に開腹手術に移行できます。逆に腹腔鏡手術では、一度入れた二酸化炭素ガスを抜かなければなりません。この気腹の中止によって生じる、呼吸や循環の大きな変動を回避することができます」(木原名誉教授)

 腰から下を麻酔した膀胱がん手術では、患者も同じヘッドマウントディスプレイを着けて、自分の手術を見ることもできる。

 ロボサージャン・ガスレス・シングルポート手術は、安全で低コストの医療として泌尿器分野だけでなく、今や脳や脊髄などでもすでに応用されている。この治療は腹腔鏡下手術の先端型であり、保険で治療が可能だ。

■取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2016年9月2日号

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