気温40度。上海市は7月下旬、観測史上3番目の猛暑に見舞われた。中国最大の大河、長江(揚子江)の最下流域にある上海市近郊の長興島では、中国海軍の秘密工場が陽炎とともに空中で揺れていた。実はここで中国の航空母艦の建造が密かに進められているのだ。ジャーナリスト・相馬勝氏が長興島に潜入した。
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上海市中心部から車で東南方向に1時間。ようやく長興島の対岸に到着する。さらに、長江の水底を貫通する隧道を20分ほど走ると、島に上陸だ。片側3車線の真新しい高速トンネル内にはほとんど車は走っていない。
島内にも東西に縦断する高速道ができているが、真新しいアスファルトは車がほとんど通った跡がないほどきれいな黒色だ。時折、右側を汚れた白い半袖シャツを着た島民の自転車が走っている。このほか、老婆が運転する農作物を運ぶ電動3輪車を見かけたくらいで、車の姿はほとんどない。走っている車は筆者が乗ったタクシーだけだった。
なぜ、このような立派な片側3車線、計6車線の高速道路が建設されたのか分からないほど、道路はがらんとして寂しい。道をまっすぐ進むと、左手に鮮やかな赤色の大型のクレーンが数十基も林立している。
「あれは何だ」。運転手に聞くと、「海軍の造船所だ。航空母艦を造っているんだ。地元では知らない者はいない」との答えが返ってきた。
高速道路を外れて脇道に入って、車でできるだけ造船所に近づいてみたが、長江の河岸付近で、道は行き止まりになっていた。
水面から立ち上がる水蒸気と陽炎で、深紅のクレーン群や工場の建物がもやって、ぼやけて見える。ドックヤードらしい構造物もおぼろげに見えるのだが、裸眼では確認できない。
帰国後、撮影した写真をできるだけ拡大すると、工場やクレーン群、それにぼんやりとだが、右側に船らしいものが写っていた。これが空母の一部なのか、別の軍艦なのかは判別できない。
造船所の周辺を廻ってみると、作業員数十人が島の河岸の埋め立てをしていた工事現場にぶつかった。埋め立て用の緩衝材を河岸に敷いて、護岸と緩衝材の間にいくつかの穴を掘って水抜きをし、砂などをかぶせ、さらにコンクリートで固める作業だ。地元の農民に話を聞くと、「空母が完成するのを待って、数年後には大きな海軍基地が建設されるといううわさだ。もう、すでに軍需物資運搬用の高速道路もできているし、兵士らのマンションなども建設中だ」との情報を得た。
さらに、高速道路沿いには、右側に大きなクレーンが10基以上も見える場所があった。