女性セブンが在宅死の割合が低かった自治体に問い合わせると、「在宅医療の取り組みは進めている」との主張も多かった。つまり病院から自宅へ──その大転換は、そう簡単にできるものではなく、一朝一夕に数値に表れるものでもないということだ。
在宅死ランキングが重要なのは、近い将来に訪れる「多死社会」を前に、自分が住む自治体が「家で死ねるかどうか」を判断する指標の一つになるからだ。
厚労省は2025年までに全国にある病院のベッド数を大幅に削減し、患者およそ30万人を介護施設や自宅に移行させる施策を進めている。
「多くの人が必要に応じた医療を適切に受けられるように病院だけではなく住み慣れた自宅で医療を受けるのも一つの選択肢だと伝えたい」(厚労省の担当者)
とはいうものの、現実に国は、「住み慣れた場所で最期まで暮らせる地域づくり」を目標に在宅医療の普及や啓発に取り組んでおり、病院の収容能力や財政面からも、医療費が抑制できる在宅死を推進したい意向は明らかだ。
だが、前述のように自宅で死ぬ人は1割程度にすぎない。大きな地域格差がある中、希望するすべての人が在宅医療を受けることは可能だろうか。小笠原さんは、「医師のやる気」がカギになると指摘する。
「在宅医療が成功するには、きちんと看取りができ、やる気のある医師が地域にいることが条件です。医院経営を考えれば、昼間の外来で患者を多く診るほうが利益率が高いので、在宅医療で夜の往診などやりたくないという医師もいます。しかし、患者が病院ではなく、自宅で亡くなることが大切と考える医師がいれば、その地域全体によい影響が出るはずです。都市と地方で状況が異なるとはいえ、最終的にいちばん大きいのは医師の気概なんです」
『現役ケアマネジャーが教える介護保険のかしこい使い方』の著者で現役ケアマネジャーである田中克典さんは、「多職種の連携」が必要と言う。
「介護の立場から言うと、医師はどうしても忙しそうで、相談するのは敷居が高く感じます。そうした医師たちを取り込み、在宅医療を担う医師会、介護、看護の各分野が連携すれば、在宅医療はもっとスムーズにいくはずです」
私たちがそのときをわが家で迎えるために必要なのは、従事者の「意識」と 「連携」のようだ。
※女性セブン2016年9月29日・10月6日号