2004年、プロ球団が入団前のアマ選手へ金銭を渡す、いわゆる「栄養費問題」が明るみに出た。結果、スカウトに関するルールが厳格化され、選手に接触することさえも困難になった。
「今は監督同席じゃないと高校生と話すらできない。昔は気軽に自宅を訪れることができたんだけどね。そこでお母さんやお婆ちゃんと話せば、その選手がどんな性格かわかった。プロの世界で真面目に努力できるか。不真面目だと周りにも悪影響が出るから。それに大事なのは母と祖母の運動神経が良いかどうか。あくまで個人的な経験則だけれど、子供の運動能力は男系よりも女系の影響が強いように思う」
苑田は今でも、部下たちには「自分が惚れたら何回でも何十回でも通え」と言ってあるという。
「自分もそうやってきましたから。通いに通い詰めて、くじで引き当てた選手に『カープに入団するのは運命だと思いました』と言わせる。それがスカウトをやっていて一番嬉しい瞬間でしょうね」
職人スカウトは、これからもデータに抗う現場主義を貫いていく。
◆そのだ・としひこ/1945年、福岡県生まれ。1964年、三池工高卒業後に広島カープに入団。当初は外野手だったが、山本浩二の入団に伴い内野手へ転向。以降は、どこでも守れるスーパーサブとしてチームに貢献した。1977年の現役引退後は、スカウトとして球団に残り、のちに球団の顔となる名選手を多数発掘する。2006年にスカウト部長に就任。現在はスカウト統括部長を務める。
撮影■藤岡雅樹 取材・文■田中周治
※週刊ポスト2016年9月30日号