では、もう一つのママドラマ『ママゴト』は?
まったく逆です。人間の生き様が、説明を超えて行間にじわりと滲じみ出てくるから。
物語の舞台は、福山弁が飛び交う中国地方の、場末のスナック。主人公は飲んだくれママ・映子(安藤サクラ)と、借金取りに追われて友達が置き去りにした5歳の男児・タイジ(小山春朋)。
映子はノンママどころか、やさぐれのヘビースモーカー。ハスっぱで人生を半分投げている。その映子になついていく5歳児タイジ。二人の間に、少しずつ血が通いはじめる。タイジの顔、ふとした言葉、自分に対する行動に反応して、映子の中に無かったはずの温かな「母のようなもの」が芽生えていく。そのプロセスが手に取るように伝わってくる。
演出は映画『リング』『仄暗い水の底から』などで知られている中田秀夫監督。映画人らしく、架空の中国地方のスナックの空気感を、いきいきと描き出しています。「じゃし」「じゃけえ」と登場人物たちが語る方言も、地方の町の雰囲気を色濃くたちのぼらせている。そして原作は漫画家・松田洋子の『ママゴト』。深い内容を持つ作品世界。と、基本的な器がまずはしっかりとできている。
そして、何よりも映子を演じる安藤サクラがいい。春のドラマ『ゆとりですがなにか』の宮下茜役もハマっていたけれど、今回の演技はそれをしのぐ光り方。なぜなら、役柄が「母」だから。「母」は、安藤サクラにとって、これまでになくハードルが高いはずだから。
人の優しさ、温かさ、包容力といったものは、下手すると重たく、くどくなる。あるいは、紋切り型になりがち。相手との関係の中で、ごくごく自然に「滲み出てくる優しさ」でなければ、クサい演技になってしまうはず。
安藤サクラが自然に「母になっていく」。人の優しさがチラリチラリとのぞく。中年女と子供、赤の他人同士が、本当の「母と子」のように見えてくる。そこにドラマツルギーがあるのです。
ということで、2つのママドラマ、軍配はこちらの「ママ」に上がったのではないでしょうか。