◆人に喜んでもらえばお金は回る

 さて一風呂浴びてみれば、沙夜は初恋の女に瓜二つだ。が、子供ができずに婚家を追われたらしい彼女の涙を見て、辰五郎は下心を封印。師匠仕込みの油売りで路銀を稼ぎ、親を知らない三吉にカワハギ釣りを教える父親役も「悪くはない」と思いつつ小田原まで来た矢先、甚右衛門の刺客〈鉄砲洲の菊佐〉の影が忍び寄るのである。

 やがて箱根を越えた一行は鞠子宿のとろろや浜松の鰻に舌鼓を打ち、ある宿では借金に追われた爺が出るという幽霊騒ぎにも遭遇する。結局思わぬ形で解決するが、これで宿賃を取るのはおかしいと不満がる三吉に辰五郎は言う。〈なんでっておめえ、おもしろかったからさ〉

「インチキだろうが何だろうが、面白いものは面白い。それが結局は博打をやめられない辰五郎の辰五郎たる所以で、僕自身、ああまで滑稽な号泣劇を見せられたら野々村元議員を許してもいいとすら思う不謹慎な人間なんです(笑い)。

 まして今後、単純労働を全部ロボットがやるようになれば、人間はギャンブルなりアニメなり文芸なり、エンタメに生きるしかない。とりわけ日本は観光かエンタメで食っていくだろうし、江戸時代みたいに少し働いて遊んで暮らすお気楽さや面白がる力が、もっと見直されていいと思うんです」

 驚いた。土橋氏は上がらない右肩や格差に手をこまねくさらにその先を見越した上で、このポップな時代小説を書いていたのである。

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