ちなみに、すみれのモデルとなった坂野惇子さんの母親は、長生きしたそうです。つまり、「朝ドラはモデルやモチーフはあっても、基本的にフィクションであり、作り手が脚色している」ということ。子役パートの苦境を鮮明に演出することで、作品全体をドラマティックなものにしているのです。
もう1つの側面は、長年の朝ドラ視聴者。コアなファンや中高年層の中には、新たな作品がはじまるたびに「今回はどんな子かな」と、子役パートを楽しみにしている人が多いのです。
歴史を振り返っても、1974年放送『鳩子の海』の斎藤こず恵さん、1983年放送『おしん』の小林綾子さん、1996年放送『ふたりっ子』の三倉佳奈さん、三倉茉奈さん、2006年放送『純情きらり』の美山加恋さん、2015年放送『あさが来た』の鈴木梨央さんなど、各年代で話題を集めた子役がいました。
朝ドラには、かわいらしさや、主演と顔が似ていること以上に、演技力重視で子役を選んできた歴史があるため、視聴者の期待値は高いものがあります。子役たちがその期待に応え、視聴者から「○○ちゃんの演技が凄かった」という称賛が毎回のように挙がるなど、いい意味での信頼関係が築けているのでしょう。
しかし、近年ヒロインの人選が変わった影響で、子役への視聴者目線がシビアになっている点は見逃せません。かつて朝ドラは、新人スター発掘の場であり、ヒロインが無名だったため、子役が知名度で劣るということはありませんでした。「ヒロインも子役も、両方知らないから気にならない」という雰囲気だったのです。
しかし、近年は実績十分の女優がヒロインを務める路線が定着して、「演技のヘタな子役、かわいくない子役を出すくらいなら、早くヒロインを出せ」という雰囲気が生まれてしまいました。そこで制作サイドは、ヒロインと同様に実績のある子役を起用することで、そのような厳しい目に対応しています。
実際、渡邉このみさんは『まれ』に続いて2回目の朝ドラ出演だけに、堂々たる演技を披露していました。いい形で芳根京子さんにバトンを引き継げましたし、今後も何度となく回想シーンでその姿が見られるでしょう。渡邉このみさんが演じたものが、軸となり伏線となり、最後まで物語に関わっていくのです。
朝ドラが『あまちゃん』のような主人公の一時期ではなく、半生を描くものである限り、子役パートの重要性は変わらないでしょう。『べっぴんさん』は、放送から2週間、NHKオンデマンドで無料配信されているので、見逃してしまった人はチェックしてみてはいかがでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。