「究極の苦しみ」の中にいるのが、終末期を迎えた患者さんだ。そして、「終末期を迎えた患者さんのお話にじっくりと耳を傾けること。それが『苦しみの中でも穏やかにすごす大切な秘訣』を学ぶ第一歩である」と話すのは、これまで2800人以上の患者さんを看取ってきたホスピス医の小澤竹俊さんだ。
終末期の患者さんと向き合う中で、「苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいると、とても嬉しい」と実感したという小澤さんが、「患者さんの話を聴く」ということの意味を語る。
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ここで、あるホスピス病棟の患者さんと、3人の看護師のやり取りを例にあげ、「丁寧に話を聴く」とはどういうことなのか、考えてみましょう。
患者さんは、余命3か月の宣告を受けた、40代後半の女性。その彼女が、「昨夜、眠れなかったんです」と訴えました。
それに対し、1人目の看護師は「だって昨日の昼間、ずっと寝ていたじゃないですか」と答えました。残念ながら患者さんは、この看護師には心を開くことができません。
2人目の看護師は「じゃ、今晩は睡眠薬の量を増やしましょう」と答えました。そうお声がけする気持ちはわかるのですが、この言葉も、患者さんの心には響きません。
ところが3人目の看護師は、「そうですか、昨夜、眠れなかったんですね」と患者さんの言葉を反復すると、足を止め、正面から患者さんと向き合いました。患者さんの言葉に潜む苦しみをキャッチしたからです。患者さんは「そうなんですよ」とつぶやき、軽くうなずきました。
苦しみをキャッチしたら、言葉を反復し、正対する。それこそが、単なる「話し相手」ではなく「理解者」になるための、聴き方の基本です。そして、苦しみを抱えた人が「この人は自分の苦しみをわかってくれた」と感じたときに初めて発するのが「そうなんですよ」という言葉であり、とても重要なキーワードだといえます。
さて、患者さんと3人目の看護師のやりとりの続きをみてみましょう。