このところ日本の企業や銀行や生命保険会社は、日銀とGPIFのPKOに乗じて株式の持ち合い解消をどんどん進めているが、これはいわばババ抜きのババを、日銀とGPIFが喜んで集めているようなものである。
もし、ジョージ・ソロスを何倍も強力にしたような海外のファンドが「日本市場は実態より3割以上も水ぶくれしている」などと喧伝して巨大な空売りを仕掛けてきたら、瞬く間に株は急落する可能性がある。ただし、そのファンドだけが戦いを仕掛けている場合は日銀やGPIFがさらなるPKOを発動するはずだから、資金力の差を考えると、致命的な状況にはならないと思う。
だが、それに伴い多くの機関投資家が国債を売り浴びせてきたら、どうなるか? おそらく国債も一気に暴落する。その場合、国債を最も大量に保有してフォアグラ状態になっている日銀が内部から“インプロージョン(圧壊)”を起こすだろう。その時に国債を買い支えようと慌ててお金を刷ったら、今度はハイパーインフレになって通貨の価値がなくなってしまう。つまり、今の日本には国債の暴落を止める手立てがないのである。
1000兆円を超える国の借金の大半を(将来世代から借りてきた返せる当てのない)国債で手当てしている日本の場合、ひとたび国債が暴落したら「ジ・エンド」だ。日銀のインプロージョンに伴い、銀行や生保なども連鎖的に倒れていくことになる。国民にとっては、虎の子の預金や保険がなくなってしまうという大変な事態になるわけだ。
今の日本は官製相場で「西部戦線異状なし」を演出しているわけだが、その実態は「帰らざる河」の極めて危険な状況に流されているということを、我々は肝に銘じるべきである。
※SAPIO2016年11月号