《向うの方が正しいことを言っているのだと思い決めて、抵抗せずに従っていた》
もちろん昔の大人がみんな立派だった訳ではない。しかし見栄を張ってでも、たとえ自分が嘘をついていても「嘘をつくもんじゃない」と子供を厳しく叱っていた。
「昔は、世間から『あの親の子か! どうりでダメだなあ』と言われるのが怖くて、親は必死でしつけていた。つまり、子供に嫌われる以前に親の沽券にかかわる問題だったのです。しかし今、子供の個性を重視しようという社会の中で、子供が悪いことをしても、親は世間が悪い、社会が悪い、政治が悪い…そう言い放って、子は犠牲者だと主張する流れに変わってきたんじゃないでしょうか」(阿川さん)
結果、いびつな親子関係が目立つようになり、親はわが子をどう叱ったらいいのか、わからなくなってくる。だからこそ、あの事件には日本中が大騒ぎした。
5月、北海道の山林で両親が子供の「しつけ」として山中に置き去りにし、7才の男の子が行方不明になった。最初は父親への同情の声も多かったが、徐々に「虐待だ」「子供がかわいそう」と父親への猛バッシングへと変わっていった。阿川さんは「父親がかわいそうだった」と言う。
「周囲が勝手に折檻と判断してバッシングしたけれど、子供が戻って来たときの2人の会話を知って、“こよなく良い関係”だと思いました」
阿川さん自身、何度も似たような経験をした。外出禁止令が出たこともあれば、鍵をかけられて家に入れてもらえないこともあった。
「もしも家を裸足で追い出された私が泣きながら走って、結果、交通事故に遭っても、きっと父は世間に対しては『自業自得だ』と言うでしょうね」
置き去り事件バッシングの背景には「子供はのびのび、褒めて自由に育てるべきだ」という風潮がある。だから親が理不尽に叱ったりすると「虐待だ」「毒親だ」と責められる。
※女性セブン2016年10月27日号