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2016.10.20 07:00  週刊ポスト

【著者に訊け】恩田陸氏 音楽を描く青春小説『蜜蜂と遠雷』

◆今や我を失う程の感動は危険物扱い

〈世界はこんなにも音楽に溢れている〉と、風間塵は蜜蜂の羽音やふとした自然にも音楽を感じ、またナサニエルはマサルの高い才能をこう評した。〈君は、早熟というのじゃない〉〈「知っている」のさ。最初からね〉

 一方、ある出場者の技巧を駆使した熱演を前にして、〈最近のハリウッド映画はエンターテインメントではなく、アトラクションである〉と揶揄したある映画監督の言葉を思い起こすのが感性鋭い元天才少女・亜夜だ。なるほど凄いと感心はするが、〈感動はしない〉と。

「私も映画や音楽に限らないアトラクション化は常々感じていて、まあマッサージみたいなものですよね。ハイ、ここは感動のツボ、泣けるツボって、感動のための感動を消費すればそれで安心というか。でも私は感動って、もっと違うところにあると思うんですよ。

 前々回の浜松国際でも、本選でブラームスの1番を弾いた女の子の演奏がもう、震えがくるほど素晴らしくて、気づくと聴衆もオケも涙を流していた。私はその光景にもグッときたくらいなんですが、今や我を失うほどの感動は危険物のような扱いなんですかね……」

 現にナサニエルは、聴衆を解放し、〈広くて思いがけないところに連れ出してゆく〉塵の音楽は、他でもない聴き手の自我を剥き出しにすると分析する。

〈根こそぎ持っていかれる〉〈どこへ行く〉〈どこに行きたいんだ、おまえは〉

「人間、わからないものほど怖いものはないですからね。ただその恐怖を乗り越えて何かに触れた時の全能感や、一瞬に永遠を感じるような瞬間は書いていても楽しいし、4人が弾く曲目に関しても何度も繰り返し聴いて、選曲や聴こえ方がそのまま人物描写になるように書いたつもりです。それは小説にしか、できないことですから」

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