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2016.10.20 07:00  週刊ポスト

【著者に訊け】恩田陸氏 音楽を描く青春小説『蜜蜂と遠雷』

 自身、高校生までピアノを続け、大学時代はビッグバンドでアルトサックスを担当。が、「ここまで人生がかかった場はさすがに縁がない」という恩田氏は無類の想像力と描写力をもって、天才だけに見える景色や孤独に肉薄してみせる。

 近年躍進著しい芳ヶ江では、書類選考の落選者にも再挑戦の機会を設けており、中でも〈嵯峨三枝子〉ら、毒舌3人組が審査を務めたパリ会場に、あろうことか遅刻してきたのが件の天才〈蜜蜂王子〉だ。尤も三枝子は優等生など興味はない。〈求めているのは「スター」であって、「ピアノの上手な若者」ではない〉〈それほどに、「あの瞬間」には完璧な、至高体験と呼ぶしかないような快楽があるのだ〉

 しかしその三枝子ですら、圧倒的な音で聴く者を呑み込む〈自然児〉の演奏には拒絶感を禁じ得ず、〈快楽と嫌悪は表裏一体〉だった。それでも〈もう一回聴いてみたくない?〉という審査員仲間に丸め込まれ、塵は、日本へ向かうこととなる。

 さらには天才少女として華々しくデビューしながら、母親の死を境に弾く意味を見失い、演奏会から逃亡した過去を持つ20歳の音大生〈栄伝亜夜〉。大手楽器店に勤める妻子持ちで、〈生活者の音楽〉を標榜する28歳の最年長者〈高島明石〉。そして実力・人気共に群を抜く〈ジュリアード王子〉こと、日系三世を母に持つ〈マサル・カルロス・レヴィ・アナトール〉19歳と、今回も幅広い才能が集結した。

 審査員も前述の3人組や、マサルの恩師でジュリアード音楽院の名教授〈ナサニエル・シルヴァーバーグ〉らが顔を揃える。ナサニエルは三枝子の元夫にしてホフマンの元弟子でもあった。またマサルは幼い頃、自分を音楽の道に導いてくれた日本の少女〈アーちゃん〉を探しており、一次予選の90人から6人が本選に進み優勝を競う熾烈な闘いに、まだ年若い彼らの恋心までが絡んでくるのである。

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