自身、高校生までピアノを続け、大学時代はビッグバンドでアルトサックスを担当。が、「ここまで人生がかかった場はさすがに縁がない」という恩田氏は無類の想像力と描写力をもって、天才だけに見える景色や孤独に肉薄してみせる。

 近年躍進著しい芳ヶ江では、書類選考の落選者にも再挑戦の機会を設けており、中でも〈嵯峨三枝子〉ら、毒舌3人組が審査を務めたパリ会場に、あろうことか遅刻してきたのが件の天才〈蜜蜂王子〉だ。尤も三枝子は優等生など興味はない。〈求めているのは「スター」であって、「ピアノの上手な若者」ではない〉〈それほどに、「あの瞬間」には完璧な、至高体験と呼ぶしかないような快楽があるのだ〉

 しかしその三枝子ですら、圧倒的な音で聴く者を呑み込む〈自然児〉の演奏には拒絶感を禁じ得ず、〈快楽と嫌悪は表裏一体〉だった。それでも〈もう一回聴いてみたくない?〉という審査員仲間に丸め込まれ、塵は、日本へ向かうこととなる。

 さらには天才少女として華々しくデビューしながら、母親の死を境に弾く意味を見失い、演奏会から逃亡した過去を持つ20歳の音大生〈栄伝亜夜〉。大手楽器店に勤める妻子持ちで、〈生活者の音楽〉を標榜する28歳の最年長者〈高島明石〉。そして実力・人気共に群を抜く〈ジュリアード王子〉こと、日系三世を母に持つ〈マサル・カルロス・レヴィ・アナトール〉19歳と、今回も幅広い才能が集結した。

 審査員も前述の3人組や、マサルの恩師でジュリアード音楽院の名教授〈ナサニエル・シルヴァーバーグ〉らが顔を揃える。ナサニエルは三枝子の元夫にしてホフマンの元弟子でもあった。またマサルは幼い頃、自分を音楽の道に導いてくれた日本の少女〈アーちゃん〉を探しており、一次予選の90人から6人が本選に進み優勝を競う熾烈な闘いに、まだ年若い彼らの恋心までが絡んでくるのである。

関連記事

トピックス

オフの日は夕方から飲み続けると公言する今田美桜(時事通信フォト)
【撮影終わりの送迎車でハイボール】今田美桜の酒豪伝説 親友・永野芽郁と“ダラダラ飲み”、ほろ酔い顔にスタッフもメロメロ
週刊ポスト
バドミントンの大会に出場されていた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
《部活動に奮闘》悠仁さま、高校のバドミントン大会にご出場 黒ジャージー、黒スニーカーのスポーティーなお姿
女性セブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン