ただし、この「ブラックホール説」にも異論が出ている。今年8月、福岡市に本社を置く西日本新聞の経済電子版に掲載された、「転入組にあえて聞く『本当は福岡が嫌い?』『福岡ブラックホール説』には盲点があった」という記事が、福岡市民に衝撃をもたらした。
市外からの転入者に本音を聞く匿名座談会で、「福岡は好きか」の問いに出席者たちは迷わず手を挙げたものの、次に「本当は福岡に嫌いなところがある人は」と聞くと、「博多弁で心の距離を近づけてくる」「車の運転や地下鉄のマナーが悪い」など次々に不満が爆発したのだ。
しかも、出席者はみな九州出身者で、東京出身者からは「価値観を押しつけられるのでは」「論破されそう」といった理由で取材を断わられたという。記事はこう結ばれる。
〈転勤者を魅了する街、福岡。しかし、同時に、地元愛からなのか、市外の人が「ノー」と言いづらい土壌を、無意識につくりだしてはいないだろうか。たとえば、ラーメン。「豚骨に限るやろ」。街を訪れた人に、そう“強要”することはなかっただろうか。「僕は醤油が」という声を、否定することはなかっただろうか〉
批判さえも許さないほどの郷土愛──それが「博多っ子純情原理主義」なのだ。
※週刊ポスト2016年10月28日号