「サムスン・ショック」に韓国が揺れている。最近の韓国経済は半導体・自動車・鉄鋼・造船の4大産業がことごとく苦境に陥っているのだ。
とくに中小企業の低迷は深刻で、全企業の約4割にあたる8万社が借金の利息さえ払えない状態にある。
だが、そうした事実が指摘されても、韓国の危機意識は高まらなかった。韓国のGDPの2割を占めるともいわれる世界最大規模の電機企業であるサムスンがいる限り、韓国経済は安泰──そんな「サムスン神話」があったからだ。
しかし、その神話は粉々に打ち砕かれた。同社が8月に発売した新型スマートフォン「ギャラクシーノート7」が世界中で爆発事故を起こしたのだ。
当初、サムスンはバッテリーが発火原因であると発表し、リコール(無料回収・修理)を実施したが、10月には交換した製品が米国の飛行機内で発火し、あわや大惨事となるところだった。
サムスンのお粗末な対応に米連邦航空局は、同製品の機内持ち込みを全面的に禁止した。日本の国交省なども追随し、世界中でギャラクシーノート7は“搭乗禁止”となる。そして年末商戦を控えたタイミングにもかかわらず、わずか2か月で製造・販売中止に追い込まれた。『週刊東洋経済』元編集長の勝又壽良氏が解説する。
「企業の製品事故に伴う損失コストは、設計段階のミスなら初期コストの10倍程度だが、製品販売後では1万倍を要するとされます。今回は最低3000億~5000億円の損失が見込まれている。サムスンブランドの失墜などを加味すると、最終的な損失額は計り知れない」
3年前に豪州でサムスン製の洗濯機が爆発する事故が起きた際、同社の売り上げは約15%低下した。今回はサムスンにとって「事業の大黒柱」であるスマホで発生しただけに、経営の根幹を揺るがしかねない。
それほどの大失態の要因は、極端なコスト削減にあると韓国人ジャーナリストは指摘する。
「昨年からサムスンは生産単価を下げるため、IC(集積回路)やタッチパネルなど主要部品を自社製造に切り替えた。その一方で、外部パートナーから購入する部品には最低価格公開入札を導入。安全よりコストを優先した姿勢が爆発事故の背景にあると指摘されている」
同じくスマホで世界進出するLGエレクトロニクスもシェアを落とし、「2014年に4・3%だった世界市場シェアは今年上半期に2.7%まで下落し、韓国内では経営陣の失策が批判されている」(同前)状況にある。
※週刊ポスト2016年11月4日号