気になるのは肌色の丸いシール「ファイテン パワーテープ」の存在だ。駒澤大や早稲田大の選手は今もつけているが、青学大や東海大はつけない。体幹トレーニング(通称・青トレ)による故障に強い身体づくりなど青学大は〈勝つ仕組みづくり〉に貪欲で、一時的に流行した手法を捨てるのも早いように思える。
市民ランナーの私もファイテンの愛用歴がある。たしかに呼吸が楽になったり、動きがよくなったりする(ような気がする)。私には「ファイテンの数は不安の数」に見える。絶好調なら、シールに頼る必要はないように思えるのだ。
もちろん、ここで落ち込む駒澤大の大八木弘明・監督ではない。出雲翌日、私と相棒の「マニアさん」は「駒澤大が朝練するらしい」という情報をキャッチ。「ここしかない」と、真っ暗なうちから出雲大社の正面鳥居前に陣取った。果たして午前5時30分、闇の向こうから駒澤大の集団走がやってきた──その時の喜びは、言葉では表現できない。
さらに、駒澤大が去った直後、背後からランナーたちが現われた。ニャイロや上田監督がいる。山学大だ。彼らも、「次」に向かっている。出雲の早朝、冷たい空気の中に確かな熱気が混じっていた。
■文/西本武司:1971年福岡県生まれ。メタボ対策のランニング中に近所を走る箱根ランナーに衝撃を受け、箱根駅伝にハマる。そのうちに、同じような箱根中毒の人々とウェブメディア「駅伝ニュース」を立ち上げる。本業はコンテンツプロデューサー。ツイッターアカウント名は「公園橋博士」、相棒は「マニアさん」(アカウント名「EKIDEN_MANIA」)
※週刊ポスト2016年11月4日号