2014年の落とし物点数は全国で2500万点。これは過去最大の点数だ。例えば東京でいちばん多いのは、クレジットカードや運転免許証などの証明書類が50万点以上。その次が手袋やストールなどを含む衣類で約46万点、そして傘が43万点と続く。
これらの落とし物は、発見されると交番や駅、デパートなどの商業施設の窓口に届けられる。
約2週間はそこで保管されるが、落とし主が見つからない場合、各県警や府警が管理し、東京に関しては、飯田橋の警視庁遺失物センターに集まって来る。
そして、3か月たっても落とし主が見つからない場合、所有権は拾得者、つまり拾って届けた人に移る。拾得者も権利を放棄した場合、最終的には各都道府県のものになる。
その後は、東京都ならば入札参加資格のある古物商が入札で買い取ったり、廃棄したりということも。ただ、個人情報となりうるスマートフォンなどは、同センターが責任を持って廃棄する。
同センターによれば証明書類は落とし主の約7割が現れるが、衣類では、約1万点で3%程度。傘に至っては約1%の約3000本しか現れなかった。なぜこんなに落とし物が増え、しかも取りに来ないのだろうか。
立教大学現代心理学部教授の芳賀繁さんは、「スマホの影響が大きい」と指摘する。
「人間の注意は、容量が限られているので、同時に複数のことを行うと、注意が不足してどちらかをミスする可能性が高まります。ゲームをしたりLINEをしたりして、注意をそちらに使っていると、つい棚においた鞄や、立てかけておいた傘を忘れてしまうんです」
さらに、ファストファッションが流行し、100円ショップもいたるところにある。落としたりなくしたりしても、「新しいものを買えばいいか」「遠くに取りに行くくらいなら同じものを買った方が楽」と物を大事にしなくなった。
日本人の良心とされてきた「モッタイナイ精神」はもうずっと前に、いつの間にか、どこかに置き忘れられてきたようだ。
「やっぱり今は代わりのものが非常に安く、簡単に買えますよね。物の価値が低くなっているのでしょうか。杖の忘れ物もあって、さぞ不自由だろうと思うのですが、今は杖すら100円で買えてしまう時代ですからね。また、アウトレットのような人が大勢集まる商業施設ができると、忘れ物もたくさん出てきます。人が増えるとゴミが出るのと同じことで、落とし物も増えるんです」(警視庁遺失物センター所長・須賀隆さん)
芳賀さんも言う。
「大事なものは忘れにくい。例えば、デートの約束を忘れることは、そうないですよね。実際、重要だと思っている予定は忘れにくいと研究の結果もあります。物についても同じことがいえるでしょう」
※女性セブン2016年11月17日号