国際情報

北方領土返還 漁業・観光の経済効果は期待薄

プーチン大統領は面積等分方式がお気に入り Reuters/AFLO

 北方領土は言うまでもなく国家主権の問題であるが、返ってくるとなれば、現実論として経済効果が見込まれる一方で、新たなコストが発生する。北方領土返還によって、どのような経済的メリット・デメリットがあるのだろうか? 大前研一氏が解説する。

 * * *
 日本にとってどのような経済的メリットが考えられるのか? よく指摘されているのが漁業の活性化だ。歯舞・色丹は主にコンブ漁だが、国後の周辺海域はサケ、マス、タラ、カニなどの好漁場である。

 しかし、もし返還後、現在は日ロ漁業交渉で定められている漁獲量の制限がなくなったら、外国船による乱獲の恐れが出てくる。もちろん日本が多く獲りすぎても同じ問題が起きる。水産資源の保護を考えると、返還後も漁獲量を大幅に増やすことは難しいだろう。

 もう1つ考えられるのは観光だ。返還後2~3年は物珍しさで、それなりに観光客が押しかけるかもしれない。だが、衛星写真などを見る限り、どの島も観光資源が乏しいようなので、大ブームになるとは思えない。

 なぜなら、北方領土よりはるかに観光資源に恵まれている利尻島や礼文島、奥尻島でさえ、夏季でも宿泊施設が満杯になるほどではないし、オフシーズンは閑古鳥が鳴いているからだ。というわけで、漁業や観光では大きな経済的メリットは考えにくい。

 また、かつて北方領土に住んでいた日本人が再び故郷の島に戻るかと言えば、彼らは高齢になっているので、今さらインフラが整っていないところに移り住むという人はかなり限られるのではないか。

 せっかく返ってきた北方領土を経済的に活用するため、新たに日本人を移住させるというプランも考えることはできる。しかし、それもほぼ不可能だろう。そもそも北海道は土地が有り余っているのだから、あえて北方領土で農業や酪農をやろうという人がいるとは思えない。

 北方領土での事業に何らかの補助金や税制優遇を与えるなど“ニンジン”をぶらさげて日本人の移住を促進することもできるが、それは経済的にはメリットではなくコストになる。

 唯一可能性があるのは、ロシア人による経済開発だろう。日本に返還されても北方領土に残留するロシア人は少なくないと考えられるので、その人たちに日本国籍を与えたり、ロシア国籍のままで引き続き居住することを認めたりして、農林水産業の振興に協力してもらうのだ。

 そして北方領土ではロシア人も日本人並みの収入、年金、医療などが手に入るというプログラムを作れば、ロシア全土から若い人たちが入植してくる可能性はある。せっかく返還されたのにロシア人に経済開発してもらうのは少々みっともない話だが、それほど北方領土を経済的メリットにつなげることは難しいと言える。

※SAPIO2016年12月号

トピックス

オーナーが出入りしていた店に貼られていた紙
「高級外車に乗り込んで…」岐阜・池田温泉旅館から“夜逃げ”したオーナーが直撃取材に見せた「怒りの表情」 委託していた町の職員も「現在もまだ旅館に入れない」と嘆き
NEWSポストセブン
記者の顔以外の一面を明かしてくれた川中さん
「夢はジャーナリストか政治家」政治スクープをすっぱ抜いた中学生記者・川中だいじさん(14)が出馬した生徒会長選挙で戦った「ものすごいライバル候補」と「人心を掴んだパフォーマンス」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博内の『景福宮』での重大な疑惑が発覚した(時事通信)
《万博店舗スタッフが告発》人気韓国料理店で“すっぱい匂いのチャプチェ”提供か…料理長が書いた「始末書」が存在、運営会社は「食品衛生上の問題はなかった」「異常な臭いはなかった」と反論
NEWSポストセブン
63歳で初めて人生を振り返った俳優・小沢仁志さん
《63歳で初めて人生を振り返った俳優・小沢仁志》不良役演じた『ビー・バップ』『スクール☆ウォーズ』で激変した人生「自分の限界を超える快感を得ちまった」
NEWSポストセブン
釜本邦茂さん
サッカー界のレジェンド・釜本邦茂さんが「免許返納」密着取材で語っていた「家族に喜んでもらえることの嬉しさ」「周りの助けの大きさ」
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがニューシングル『Letter』をリリース(写真・左/AFLO、写真・右/Xより)
羽生結弦の元妻のバイオリニスト・末延麻裕子さん、“因縁の8月”にニューシングル発売 羽生にとっては“消せない影”となるのか 
女性セブン
中学生記者・川中だいじさん(14)が明かした”特ダネ”の舞台裏とは──
「期末テストそっちのけ」中学生記者・川中だいじさん(14)が抜いた特ダネスクープの“思わぬ端緒”「斎藤知事ボランティアに“選挙慣れ”した女性が…」《突撃著書サイン時間稼ぎ作戦で玉木氏を直撃取材》
NEWSポストセブン
釜本邦茂さん
メキシコ五輪得点王・釜本邦茂さんが語っていた“点取り虫”になる原点 “勝負に勝たなければならない”の信念は「三国志」に学んでいたと語る
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴行動画に批判殺到の花井組》社長らが書類送検で会社の今後は…元従業員は「解体に向けて準備中」、会長は「解体とは決まっていない。結果が出てくれば、いずれわかる」と回答
NEWSポストセブン
雅子さまのご静養に同行する愛子さま(2025年8月、静岡県下田市。撮影/JMPA) 
愛子さま、雅子さまのご静養にすべて同行する“熱情” そばに寄り添う“幼なじみ”は大手造船会社のご子息、両陛下からも全幅の信頼 
女性セブン
猫愛に溢れるマルタでは、動物保護団体や市民による抗議活動が続いているという(左・時事通信フォト)
《深夜に猫地面にたたきつける動画》マルタで“猫殺し”容疑で逮捕の慶應卒エリート・オカムラサトシ容疑者の凶行と、マルタ国民の怒号「恥を知れ」「国外に追放せよ」
NEWSポストセブン
大神いずみアナ(右)と馬場典子アナが“長嶋茂雄さんの思い出”を語り合う
大神いずみアナ&馬場典子アナが語る“長嶋茂雄さんの思い出”「こちらが答えて欲しそうなことを察して話してくれる」超一流の受け答え
週刊ポスト