2000年代、若い女性向けの雑誌には読者モデル、通称「読モ」が続々と登場し、一時は数千人も存在したといわれている。十代でモデルデビューした彼女たちも、いまや30歳前後のアラサーになった。読モ経験者にはタレントなどに転身し活躍する人もいるが、大半が元読モの肩書がついた一般人になる。普通の人になったはずの元読モのうち、少なくない女性が、人から注目を集めることを最優先する生き方しかできなくなっている。矛盾した生き方を続ける元読モの今を、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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「逗子マリーナ到着(ハート※原文では赤い記号)これからワイン &シャンパンでパリピ三昧(^3^)/」
モデル仲間と思しき美女と共に、海の家に設けられた「VIP席」ともいうべき白いソファに腰を下ろし、シャンパングラスを片手に微笑む水着姿のR香(28)。R香がSNSへ写真付きの記事アップをするや否や、即座に数十の「いいね!」がつき「かわいいですね」「きれいですね」といった、リアルでは面識も接点もないSNS上の知人に過ぎないオジサンから寄せられた、他愛なきコメントがつく。
東京・西葛西の都営住宅の一室で、R香が今日も「誰かに向けた」としか思えない、自身の虚像をSNSにアップし続けているのには、理由があった。
昨年、インターネットオークションで偽ブランド品を販売してとして、詐欺容疑で逮捕された女性M。MはSNS上で、自身が「セレブ」であるように装う言動を行い、良くも悪くも大いに注目を浴びていたが、その実は、筆者と同じ九州北部の寂れた漁村出身で、生活実態は「セレブ」からかけ離れたものだった。Mが逮捕され”詐欺師”の本当の姿を週刊誌やテレビが報じると、世間は面白おかしく彼女を叩いた。R香の言動は、Mのそれと似たものを思わせる。
R香は17歳の時、通っていた通信制高校のスクーリングの帰りに立ち寄った渋谷で、編集者にスカウトされ読者モデルとして活動し始めた。当時ティーン向け雑誌編集者だった筆者から見て、11年前といえば、読モ(読者モデル)バブルが弾ける寸前だ。有象無象の”個性派読モ”が誌面を飾ったが、またR香のような読モたちのほとんどが日の目を見ずに立ち去った。
益若つばさや舟山久美子といった“読モ出身”の看板を引っさげ今なお活躍するタレントの陰に、R香をはじめとした面々が存在する。正直に告白すれば、R香は、他でもない筆者がスカウトした女の子であった。
そんなR香だが、2~3年を読者モデルとして過ごした後は、アルバイト先でもあったギャル系アパレルブランド「Z」の企画チームに就職。R香は現在もZの契約社員として働いているが、月給は手取りで10万円弱。
「読モになってからすぐ、Zのプレス(広報)から連絡が入り、Zのモデルをやることになったの。Zの広告に出たり、ファッションスナップなんかの“私服撮影”の時にZからもらった服を着ていったりもした。ショーに出ればまた別にお金がもらえたり、社長にご飯食べさせてもらったり…月収は少なくても30万円以上、今の倍以上だよね」
現役読モ時代のR香は、夜や週末は都内の繁華街にあるクラブイベントにも頻繁に招待され、ゲストとしてステージに上がった。当時付き合っていたのは、クラブイベントオーガナイザーの男性。男性が所有していた目黒区青葉台の高級マンションで生活していたが、R香が所属していた雑誌にも若い人気モデルが増え、出演の機会が目に見えるように減っていくと、男性の態度が日に日に変わっていったという。