国際情報

ヒラリー・クリントンを敗者にした4つの致命傷

大前研一氏が米大統領選を分析

 事前の下馬評では、ほとんどのメディアが勝利だとみていたヒラリー・クリントン氏は、なぜ米大統領選でドナルド・トランプ氏に敗れたのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、その敗因として考えられる4つの致命傷について解説する。

 * * *
 ヒラリー氏の敗因は大きく四つある。まず、副大統領候補選びの間違いだ。

 民主党の予備選挙で最後まで競り合った「民主社会主義者」のバーニー・サンダース氏を指名しておけば、おそらく圧勝していたと思う。なぜなら、予備選挙でサンダース氏がヒラリー氏に勝った州の大半は、大統領選挙ではトランプ氏がヒラリー氏に勝ったからである。つまり、サンダース票の多くが同じ民主党のヒラリー氏ではなく、共和党のトランプ氏に流れたと考えられるのだ。

 二つ目は、夫ビル・クリントン氏の存在である。「ヒラリーはともかくホワイトハウスで不倫したビルが再びあの建物に入るのは許せない」という強い拒絶反応を示した女性が、実は意外に多かった。トランプ氏も女性蔑視問題で騒がれたが、女性たちは「ビルよりはまし」と思ったわけである。

 三つ目は、エリート臭をふりまきながら偉そうな顔をしてインテリジェンスをひけらかすヒラリー氏本人に対する女性たちの嫌悪感だ。これは理屈ではなく本能的なものであり、この弱点をヒラリー氏は最後まで克服できなかった。女性の4割以上がトランプ氏に投票したという事実が、それを雄弁に物語っている。

 四つ目は、伝統的な政治家であるがゆえにTPPに関する発言が変わったことだ。

 TPPはオバマ大統領が命がけで取り組んだ政治課題の一つであり、その応援も受けていたにもかかわらず、トランプ氏がTPP破棄を主張したら、途中で反対に転向した。これはオバマ大統領に後足で砂をかけるような所業であり、インクルーシブ(包括的)すぎるので、「ヒラリーはアメリカ初の女性大統領になりたいだけではないか?」と見られ、致命傷の一つになったと私は考えている。

 要は、トランプ氏の勝因よりもヒラリー氏の敗因のほうが多すぎたわけである。ヒラリー氏は自身の私用メール問題に関するFBI(連邦捜査局)の捜査再開決定が敗因だったという見方を示したが、これは大した影響はなかったと思う。

※週刊ポスト2016年12月2日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン