国内

かつての北方領土カニ密漁団は漁師と暴力団の混合チーム

北方領土返還が実現すれば日本は新たに豊富な漁場を得る

 黒潮と親潮ふたつの海流が交差する北方領土。返還が実現すれば日本は新たに豊富な漁場を得ることになるが、かつてカニで栄華を極めた密漁とヤクザの関係はどうなるのか。鈴木智彦氏が現在の密漁事情をレポートする。

 * * *
「色丹、歯舞が戻ってきたら、特攻船の時代に舞い戻るだろう」

 北海道で地元採用された海上保安庁職員は危機感を隠せない。

「漁師はともかく、暴力団がこの機を見逃すはずがない。密漁団が息を吹き返す。今から対応策を練っていないと後手に回る」

 彼自身、20年以上、北海道の密漁団と戦ってきた経験がある。現場を知る者の率直な発言だ。

 特攻船とは1980年代に大流行したカニ密漁の手法だ。100億円産業に発展したが、1993年のエリツィン大統領の訪日以降、徹底した取り締まりが行われ壊滅、同時に根室の賑わいも消えた。

 密漁マネーを当て込んで、全国から美人ホステスを引き抜いてきた高級クラブは、現在、居酒屋チェーンの店舗となり、町一番の繁華街だった緑町は、週末でも人影がまばらだ。

 カニ漁は専用のカニかごや漁船が必要なこともあって、密漁には漁師の手助けが欠かせない。往事のカニ密漁団は漁師と暴力団の混合チームで構成されていた。

「漁師もヤクザも、陸の道徳は二の次で、ものを言うのは腕っ節だ」(かつて特攻船の一団を率いていた元暴力団幹部)

 暴力団と堅気の境界線が曖昧だった時代、漁師でありながら組織の幹部という兼業も珍しくなかった。彼らの獲ってくるカニは街全体を潤し、根室ヤクザの羽振りの良さは、道内でも屈指といわれた。

 特攻船壊滅後、密漁カニはロシア人漁師から仕入れるのが一般的となった。ロシア人がロシア国内で密漁してきたカニは、ソ連に拿捕され収容所でコネを作ったヤクザたちが窓口となって取引された。

●すずき・ともひこ/1966年、北海道生まれ。『実話時代』編集などを経て、フリージャーナリストに。近著に『鈴木智彦の「激ヤバ地帯」潜入記!』(宝島社)、『ヤクザのカリスマ』(ミリオン出版)ほか著書多数。

※SAPIO2016年7月号

関連キーワード

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン