「あの日のマエケンは絶好調で、自信を持って要求したスライダーを打たれてしまった。悔しさだけが残った試合でしたが、翌年4月6日のDeNA戦で同じ場面がやってきた。この日のマエケンも絶好調だったので、信じて投げさせた。無事にノーヒットノーランを達成できた時は、嬉しさよりも安堵感が勝りました(笑い)」
広島のエースの球を受け続けた19年間で、チームを取り巻く環境の変化も目の当たりにしてきた。
「特にファンの変化は大きい。かつての市民球場は狭いし、ミスすればバックネット裏から野太い声で“ヘタクソが!”“やめてまえ!”とヤジが飛ぶ。心が折れそうになりながら球を受けていました。今はカープ女子なんかもいて、黄色い声援がスタジアムを包んでくれている。昔は球場で女子アナを見たこともなかったのに、今や結婚した選手もいますから(笑い)」
プロ野球の栄枯盛衰を知るレジェンドが、また一人球界を去った──。
【プロフィール】くら・よしかず/1975年京都府生まれ。1998年、京都産業大学からドラフト5位で広島に入団。2008年からの2年間は選手会長を務め、2016年は二軍バッテリーコーチを兼務。通算成績は1564打数339安打、打率.217、打点126、本塁打23。
撮影■杉原照夫
※週刊ポスト2016年12月2日号