スクープの秘密は〈日頃築き上げたネットワークから得る情報がすべてと言っても過言ではない〉と著者は書く。実際、「シャブ&飛鳥事件」や「高倉健の養女発見」などは、一般人には縁がない裏社会や芸能界の人脈あってこそのものだったらしい。しかし、それはきっかけにすぎない。その“スクープの種”を育て、誌面で大輪の花を咲かせるにはその後の地道な取材活動が欠かせない。
水泳の北島康介選手の父・富士男さんにインタビューしたときは、炎天下の路上で何時間も待ち続けた。駅のホームで起きた殺人事件の目撃者を探すため、始発から終電まで一日中、改札で乗降客に声をかけ続けた。週刊誌の記者がこれほど誠実に、真剣に仕事に取り組んでいると知って驚く読者も多いだろう。
エース記者として名を馳せた著者には、確かにスクープを取る才能があったに違いない。だが、スクープは才能だけでは取れない。1つの事実を確認するため、ときには身の危険も顧みず、膨大な時間と労力を費やす必要がある。それは記者に限らず、あらゆる仕事に通じることでもあるだろう。
私も駆け出しの数年間、本誌で記者をしていた時代がある。事件班の記者として、大きな殺人事件が起きるたびに全国を飛び回った。現場周辺で聞き込みをしても、親切に応じてくれる人など一握り。被害者遺族の家に押しかけ、怒鳴られたり泣き叫ばれたりしたことも数え切れない。著者と違ってスクープとは無縁の三流記者に過ぎなかったが、愚直に歩き回り、徹夜して原稿を書いた。あのハードだった日々が、今の自分を支えているようにも思う。
※女性セブン2016年12月15日号