アイドルが参入してから、ライブハウスはどのように変わったのか。佐藤さんは四谷アウトブレイクがオープンした2004年頃のバンドブームを振り返ります。
「世間的にはバンドブームが去ったと思われている時期ですが、ライブハウスにはノルマを払ってでも出演したいバンドが大勢いました。ノルマも1500円のチケットを20枚くらいが普通でした」
チケットノルマとは、必ず売らないとならないチケットの枚数のことです。もし、販売枚数がノルマに達しなかった場合、出演者が自腹で購入することになります。
同時期にほかのライブハウスに勤めていた原口さんも、「ノルマ以前にオーディションがあって、同じバンドを何回も落としたことがある」と話しています。ノルマやオーディションなどが当たり前にあると、ライブハウスと演者の関係は、まるで師匠と弟子のようなものになります。ところが、アイドルに対しては同じような関係にはなりませんでした。
現在、ライブハウスに出演しているアイドルには、ほとんどオーディションやノルマがありません。これはアイドルの動員力とチケット代の高さに理由があります。同じライブハウスのイベントでも、バンドのチケットは1500円で、アイドルのライブは3000円に設定されていることがよくあります。
バンドのライブチケットに比べると、アイドルのライブチケットの価格は高額です。しかし、その価格でも集客があるので、アイドルはノルマを課されることが少ないのですが、ライブハウスにとっても、ミュージシャンにとっても、ノルマもオーディションもない出演者の登場は衝撃の変化でした。その結果、ライブハウスとアイドルは、バンドの場合の師匠と弟子というより、学園祭の実行委員どうしのような雰囲気をもった関係になっているように思います。
個人的にはアイドルと共に、彼女達のファンがライブハウスに来るようになったことも、変革に繋がっていると感じます。アイドルファンは、どんな場所でも臆さずに応援しに来てくれるのです。そして、どんな環境でもめいっぱい楽しみ、楽しませてくれるからです。
BABY METALがメタルに挑戦したように、アイドルには音楽ジャンルに制限がありません。そのためアイドルファンには何でも聞く幅広い音楽好きが多く、アイドルがバンドと共演する時は、バンドの演奏も楽しそうに聞いています。アイドルファンの大きな声援に驚きつつ、嬉しそうにするミュージシャンをたくさん目にしてきました。最近では、アイドルファンの応援に惹かれて、シンガーソングライターの女の子がアイドルに転向する例も増えており、CDだけでなく生写真や2ショット撮影券を販売していることもあります。
マスメディアでのアイドルブームが来年も続くかどうかはわかりませんが、ライブハウスでのアイドルブームは定着したまましばらく続きそうです。