2014年3月に表面化したクリミア問題では、ロシアに対する最高レベルの制裁を求めたアメリカに対し、ドイツをはじめとするEU各国の姿勢には明らかに温度差があった。
この頃累次にわたって行われたG7各国を中心とする国際会議では、米、EU、ロシアという三勢力と中立的かつ友好な関係を維持している日本の調整を依頼する機運が高まった。ドイツのメルケル首相はある国際会議に先立つ日独首脳会談の場で、各国が飲める合意案に落ち着くよう、安倍に議論の牽引役を依頼してきた事がある。
こうした調整役としての機能は決して簡単な仕事ではないが、各国からの期待が寄せられる展開というのは今の安倍にとって負担等より、やりがいにつながっているといってよい。
この脈絡において、世界が注目した11月17日のトランプ大統領との非公式会談は、いろいろな意味で安倍外交のフェーズを一つ上に押し上げたと言える。異例ずくめだったこの会談を振り返ってみよう。
この原稿を執筆している11月下旬段階でトランプは世界30か国以上の首脳と電話会談をこなし、そのうちの半数近くに上る国から首脳会談の打診を受けたが、安倍以外の誰とも首脳会談を行っていない。
ホワイトハウスや閣僚、4000人に上る政治任用ポストの人事で多忙を極める最中に、なぜ安倍とだけ首脳会談を行ったのか。トランプ陣営周辺から漏れてくるのは、安倍の政治キャリアと外交実績をトランプが高く評価している事が異例の会談実現につながったという見方である。
政治経験のないトランプにとっては、外交は未知の領域だ。当選を決めた翌日にオバマ大統領と会談した後、ホワイトハウスを辞する際にトランプは、隣のペンス次期副大統領に対し、「外交というのは乗り越えなければならない最も難しい課題の一つだ」と漏らしたという。
そういうトランプにとって、4年弱にわたって安定した政権を運営し、多くの首脳と会談を繰り返してきた安倍は、格好のお手本だというのがトランプ側近の見方である。