異例ずくめの会談を終えて訪問したAPEC会場のリマでは、トランプとの会談を終えたばかりの安倍は各国首脳から引っ張りだことなった。正式な首脳会談を行ったリーダーはもちろん、全体会合の場ですれ違った旧知の首脳からも次々と声がかかった。
ある南米の首脳は会談の最後に居ても立っても居られない体でこう言い放ったという。
「安倍さん、これだけはどうしても聞きたくて我慢が出来ないんだ。トランプ大統領っていうのはどんな人物だったんだ?」
国際政治の舞台での存在感は、在任期間が増えるにしたがって逓増していくのが常だが、ペルーでの安倍はさらに一段ステップを上がった感がある。米露中といった、いい意味でも悪い意味でも国際ニュースの真ん中に居続けるリーダー達に伍して「シンゾー・アベ」の名は多くの首脳の口に上り、記憶に残った。
しかし引き続いて行われたプーチン大統領との首脳会談を終えた安倍の表情は、決して明るいものではなかった。記者団に対しても、「(領土交渉は)簡単なものではない」と、厳しさを隠さなかった。
国際政治の舞台での存在感がいくら増しても二国間の問題が解決するわけではない。政治生命を懸けて取り組んでいる日ロ交渉、そして2017年1月から本格始動するトランプ政権と、首脳間の関係は良好でも、それぞれの二国間関係に横たわる問題は解決の難しいものばかりだ。
今年の年末から来年にかけて、安倍外交は最大の正念場を迎える。
●やまぐち・のりゆき/1966年東京生まれ。フリージャーナリスト・アメリカシンクタンク客員研究員。1990年慶應義塾大学経済学部卒、TBS入社。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月TBSを退職。安倍政権の舞台裏を克明に綴った『総理』が反響を呼ぶ。
※SAPIO2017年1月号