ビジネス

最小0.0005gの部品と格闘する国内最高峰腕時計の製作現場

選ばれし職人が組み立てを行なう雫石高級時計工房

 ガラス張りの明るい部屋の中で、白い防塵服と防塵帽を身につけた二十数人が、顕微鏡やルーペを覗いたりモニターをチェックしたりしながら、小さな工具片手に作業に集中している。

 一人ひとりに与えられたスペースは広く、漆塗り、欅製の作業机は大きく、重厚感がある。12世紀に起源を持つ地元岩手の伝統家具の岩谷堂箪笥の机は、作業者一人ひとりの体型に合わせて作った特注品で、作業者のネームプレートがつけられている。

 工場と言うよりは、先端分野の研究室。それでいて手作り、手作業の温もりも感じさせる──それが雫石高級時計工房である。

 セイコーグループの腕時計の生産拠点である盛岡セイコー工業(岩手・雫石町)。部品の製造から製品の組立までを自社で行なう、「マニュファクチュール」と呼ばれる世界でも珍しい存在だ。

 セイコーが世界に誇る高級腕時計グランドセイコー(以下GS)には、ゼンマイで動く機械式、水晶振動子を使ったクオーツ式、その2つをミックスした独自の「スプリングドライブ」という3つのタイプがあるが、最も職人の熟練技能がモノをいう調整作業が必要な機械式を作るのが、ここ雫石だ。

 セイコーの機械式腕時計は、1960年代には時計の精度を競う国際コンクールで上位を独占したほど、世界的に見てもレベルが高い。雫石高級時計工房は2004年、その完成品組立までを行なう工房として工場の一角に誕生した。時計職人の精鋭中の精鋭が集まる場だ。

 GSの中で最も大きいモデルでも、ケースなどを除いたムーブメント部分の径は3cm弱、厚さは6.5mm。その小さな空間に実に二百数十の部品が集積されている。

 工房の熟練職人がそれらの部品の組立、調整、針やケースなど外装の取り付け、バンド付けなどの工程を分担する。なかでも最も重要なのがヒゲゼンマイの調整だ。ヒゲゼンマイとは、腕時計の中で往復回転運動をするテンプ(振り子時計における振り子に相当)に付けられた渦巻き状の部品のこと。

関連キーワード

トピックス

伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
総理といえど有力な対立候補が立てば大きく票を減らしそうな状況(時事通信フォト)
【闇パーティー疑惑に説明ゼロ】岸田文雄・首相、選挙地盤は強固でも“有力対立候補が立てば大きく票を減らしそう”な状況
週刊ポスト
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン