ライフ

【書評】「自称保守」「自称リベラル」への果たし状

【書評】『ザ・議論!「リベラルvs保守」究極対決』/井上達夫、小林よしのり著/毎日新聞出版/本体1500円+税

【著者プロフィール】井上達夫(いのうえ・たつお)/1954年大阪府生まれ。東京大学大学院教授。『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』(毎日新聞出版)が話題。

小林よしのり(こばやし・よしのり)/1953年福岡県生まれ。漫画家。近著に『ゴーマニズム戦歴』(ベスト新書)。

 小林よしのりと井上達夫が「天皇制」「歴史認識」「憲法9条」をテーマに長時間話し合った対談集。馴染みのない読者のために説明しておくと、井上は法哲学の権威で、リベラリズム論の第一人者。リベラルの立場だが、以前から護憲派の欺瞞を厳しく批判し、安全保障政策は憲法で縛るべきではなく政策論議によって決めるべきだとして「9条削除」を主張している。

「天皇制」については、井上が「同調圧力を拡大させる」「天皇・皇室の人権を蹂躙している」として反対するのに対し、小林は「無私の権威が存在することで一般人の公共心が保たれる」として賛成する。

「歴史認識」についても、井上は「日本の加害者性」を強調し(それを認めてこそ戦勝国の戦争責任を追及できる、とする)、「昭和天皇には戦争責任があり、敗戦と同時に退位すべきだった」と主張。対する小林は「当時は帝国主義の時代で、戦後の倫理観で批判することはできない」と反論する。

 だが、「憲法9条」を巡る議論に入ったあたりから、対立と同様、共感、共鳴も目立つようになる。たとえば、ともに、民主国家にこそ徴兵制が必要である、民主主義の基盤にはナショナリズムがあり、グローバリズムと民主主義は対立する、と述べる。

 それ以上に共通しているのは2人の姿勢である。小林は〈思考停止の「運動」をやめて、それぞれが責任ある「個」として、「公」についての議論を重ねなければならない〉と、井上は〈左右の蛸壺集団に対し「一人一党」の思想闘争を続けてきた〉と言う。そんな2人による議論はきわめて刺激的だ。単なる運動体としての「自称保守」「自称リベラル」に対する厳しい批判の書としても読める。

※SAPIO2017年1月号

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン