◆写真撮影も禁じられた

 サミットに随行した記者団はアリゾナ記念館には同行せず、議員の写真撮影も禁じられたという。

「記念館を訪問した後はすぐに特別機に戻り、飛び立ったから真珠湾に滞在したのはほんの短い時間でした」(同前)

 当時の記録や報道を検証すると、竹下首相一行はトロントからシカゴを経由して6月24日にハワイのマウイ島に到着。現地で2泊したあと、6月26日朝8時(日本時間)にマウイを発ち、途中、オアフに立ち寄って夕方6時23分に羽田に到着した。マウイからオアフは空路30分、オアフから羽田までの所要時間は約7~8時間であり、オアフ滞在は1~2時間ほどだったことになる。だが、このときに真珠湾を訪問したという記録は残されていない。

 アリゾナ記念館の歴史専門家ダニエル・マルチネス氏に問い合わせると、「竹下首相が訪問した記録は残っていない。ただし、米海軍の関係者が記念館の管理部門を通さずに客を案内することはある」という回答だった。

 竹下氏のトロントサミット訪問には自民党国会議員や総理秘書官、各省スタッフ約50人が同行したが、議員の一人は、

「ハワイ滞在中は他の同行議員とゴルフをしており、竹下さんとは別行動だった。竹下さんが行っていたとしても、同行した可能性がある議員は数人しかいない」

 と言う。そのうちの1人がこの証言者だ。もう一人同行した可能性のある別の元議員に尋ねると、

「昔のことはよく覚えていない」

 と煙に巻かれた。そんなことがあり得るだろうか。そこで竹下氏の総理首席秘書官でトロントサミットにも同行した波多野誠氏を直撃した。波多野氏は本誌が得た証言をぶつけると、

「それは間違いじゃないとは思うが、私の立場で記憶違いがあってはいけないので一緒に行った他の秘書官にも確認をとりたい」

 そう言って経産省出身と大蔵省出身の2人の元秘書官(いずれも次官経験者)に電話をかけた後、「2人とも行っていないと言っている。(証言した議員は)別の時に行ったのと記憶違いをしているのではないか」と前言を翻した。

 だが、本誌に証言した元議員は、「私がアリゾナ記念館に行ったのはその1度きりですから、記憶違いはあり得ない」と断言する。

 1988年当時は日米貿易摩擦が吹き荒れ、日米関係が悪化していた。また、真珠湾攻撃を巡っては様々な見解があることから、現職首相がアリゾナ記念館を訪問することが明らかになれば、日本国内で少なからぬハレーションが起きたことは想像に難くない。

「“気配りの人”と呼ばれた竹下さんが、その点に配慮して非公式訪問とした可能性は高い」(同前)というが、安倍首相の公式訪問が実現する今、竹下氏のアリゾナ記念館訪問の“封印”は解かれていい時期なのではないか。

 いやむしろ、安倍首相の“初訪問”があるからこそ、この歴史は知られてはならないのかもしれない。

※週刊ポスト2017年1月1・6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン