1971年の「ニクソン・ショック」になぞらえればよりわかりやすいかもしれない。反共の闘士ニクソンが策士キッシンジャーを使って中国に接近したのは、中国を抱き込んで最大の敵であるソ連を孤立させるためだった。
トランプがもし中国を最大の敵と見做すのであれば、中国を孤立させるためにロシアを抱き込みたいと考えるのは自然の成り行きだろう。ダマンスキー島(珍宝島)での武力衝突のように、中ソ対立が公になっていた点が当時と現代の違いだが、先程述べたように中露関係には潜在的な火種が多く、トランプがそこに火を点けて回るかもしれない。
安倍晋三政権下での日露関係の改善もこうした流れの中で位置付けられる。元来、日露接近を最も嫌っていたのは米国だった。一番の敵ロシアと一番の子分(と米国が一方的に思っているだけだが)日本が近付くことは地政学上の大変動に繋がるという認識で、日ソ国交正常化(1956年)の際に北方領土問題は解決の可能性があったが、国務長官ダレスは当時米統治下にあった沖縄を返還しない可能性をちらつかせて日ソ接近を牽制した。いわゆるダレスの恫喝だ。しかし、トランプ大統領自身がロシア接近を打ち出せば前提が変わり、日露接近と北方領土交渉にはプラスに働く。
こうして日米同盟だけでなく、米露、日露関係の改善でロシアも加われば、水も漏らさぬ“中国大包囲網”の完成だ。このシナリオで一番あたふたするのは北朝鮮である。従来のまま中国につき従っていては、一蓮托生で自分自身が包囲網に押し潰されてしまうという危機感を抱き、中国陣営からの脱走とトランプ側への寝返りを画策するだろう。