時代とともに物流の主役がトラック輸送にシフトすると、鉄道の荷物輸送は衰退。今では、ほとんど目にすることはなくなった。
東京から房総方面のターミナル駅として栄えた両国駅には、通常時は閉鎖されている3番線ホームがある。2010(平成22)年まで、両国駅の3番線ホームから房総方面に新聞を配達する新聞輸送列車が発着していた。
また、荷物列車の変形バージョンも存在した。京成電鉄では千葉や茨城の農村で収穫された野菜を東京に売り歩く行商人専用の列車が運行されていた。時代とともに行商人が減少したこともあり、近年は旅客列車の一部に行商専用車両を連結して運行をつづけていた。その行商専用列車も2013(平成25)年に廃止された。
近畿日本鉄道では伊勢湾で獲れた鮮魚を運ぶ鮮魚列車が今でも運行されているが、鮮魚列車もいつ使命を終えるかわからない状態にある。荷物列車は風前の灯なのだ。
そうした荷物列車縮小時代にあって、荷物輸送で新しい可能性を切り開こうとして注目されている鉄道会社がある。京都市内で路面電車を運行している京福電気鉄道(京福)だ。四条大宮-嵐山の嵐山線と北野白梅町-帷子ノ辻の北野線の2路線を有する京福は、ヤマト運輸からの提案を受けて2011(平成23)年から宅急便電車の運行を開始した。
京福が運行する宅急便電車は、朝に車庫のある西院から出発し、嵐電天神川駅・蚕ノ社駅・帷子ノ辻駅・有栖川駅・嵐電嵯峨駅の各駅で荷物を下ろして各集配所に運ばれる。夕方は嵐山から逆ルートをたどる。嵐山駅は一年を通じて観光客が多いため、ヤマト運輸は集配所のみならず手荷物預り所も開設している。
全国に線路を有するJRだったらスケールメリットをフル活用し、トラックよりも長距離輸送・大量輸送で威力を発揮できるだろう。しかし、京福の嵐山-西院間は5.8キロメートルしかない。西院までトラックで荷物を運び、それを電車に積め替え、駅で積み下ろして集配所まで運び、集配所から各家庭に運ぶのでは、積み替えなどの手間が増えてしまい輸送効率は逆に悪化するのではないか?
「京福電鉄と宅急便電車を運行することになった背景には、京都独特の街の構造があります。京都は古い家屋が残っている歴史ある街ですが、そのために道路も昔のまま細く狭くなっています。そうした道路事情もあってトラックで配達することが難しい地域です。特に京福沿線は路地のような小さな道が多いので、電車と台車とを組み合わせた配送の方が効率的のようです。また、ヤマト運輸はCO2の削減に取り組んでいますから、環境面からもトラックをできるだけ使用しない方針があります。そうした点から、宅急便電車が誕生したのです」(京福電鉄鉄道部)
トラックから電車に配送手段をシフトすることで、配達の効率化やCO2の削減といったメリットがあるにしても、京福が宅急便電車を運行するのにあたってクリアしなければならないハードルがあった。