──入学金や学費の高い私立は、大学までつながったエスカレーター校に多く、偏差値も高いイメージがある。
安田:総じて大学付属校は高いですよね。学校の形態でいうと、共学や男子校に比べて女子校の学費は安い傾向にあります。どうしてかというと、女子教育は戦前から民間がやってきた歴史が長いため、いまでも女子校の数が多く受験者数や定員も多い。市場競争が厳しく学費を上げられないのです。
──国や自治体の支援策が進めば進むほど、定員割れして経営難に苦しむ、いわゆる“ゾンビ私立”を救うことにもなるとの指摘もあるが。
安田:私学といっても多種多様なので、この制度でどの学校が救われるか一概に言えない面はあります。定員が埋まらない学校ほど、先生方も必死でやっていますしね。
ただ、学費を安く抑えているために経営が苦しく、比較的所得が少ない家庭の子が来ている私学にとっては、生徒を増やすチャンスといえます。
──学費と偏差値には相関関係がないのか。
安田:偏差値の低い私立ほど学費が安い傾向にあるのは確かです。逆に偏差値の高い私立は志願者もたくさんいるので、学費が高くても生徒集めに困らない。市場原理が働いているという意味で、それは仕方のないことです。
ただ、今後は公立と同じ学費になるなら、特色のある教育をやっているとか、生徒の面倒見がいい、施設が充実している……といった理由から私立を選ぶ人は増えるかもしれません。
──私立人気が高まれば、運営が危うくなる公立も出てくるのか。
安田:東京でいえば、都立高校の定員がどうなるかにも関わってくるでしょうね。これはどの県の進路指導調査を見てもそうですが、中学から私立に行けなかった層の7割~8割は高校も公立志望です。一部の難関校や大学付属高以外の私立は、多くは都立の併願校になっている現状があります。
いずれにせよ、公立も私立も他校とは違う「選ばれるための魅力」をアピールしていかなければ、本格的な少子化を迎える時代、存続は厳しいと思います。
──私立高の授業料無償化は、対象世帯年収が違うものの、すでに大阪府でも実施している。大阪の先行事例から学ぶことは。
安田:無償化に伴い、私立の中学受験が盛んになるのでは? という意見もありましたが、大阪では「どうせ授業料の援助があるなら、高校から私学に行っても遅くない」と、逆に中学受験率が低下しました。
──東京の制度拡充は都民だけが対象で、都外の千葉や埼玉の私立に進んでも適用される。逆に郊外県から都内の私立に通う人たちは給付を受けられない。無償化の流れが全国的に広がらなければ不公平だ。
安田:自治体の財政力の差が出る制度ですよね。県を超えて私立に通っている子供も多い中、本来望ましいのは国が全国一律に支援すること。そうしなければ、どの自治体に住んでいるかで教育レベルの差もますます広がってしまいます。
──そもそも、私立の無償化は小池都知事の“人気取り”の公約だったことは否めない。
安田:公明党と連携するための施策だったといわれていますね。あまりにも政治的な思惑で教育が変わるのはどうかと思います。
ただ、私立に通っているご家庭からすると、公立高校は自分たちが納めた税金で運営されているから、二重にお金を払っているという意見もあります。そう考えると、ヨーロッパの国みたいに、公立に行っても私立に行っても授業料すべて無償化にするのがベストな制度なのかもしれません。