この矛盾を一挙に解決するのが「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏の登場です。損得勘定を重視するビジネスマンのトランプ氏が日本に自前の安全保障を要求するゆえ、日米同盟と逆行せず「親米的な核保有」が可能になります。
では具体的に、どのようなプロセスで日本の核武装が進みうるのでしょうか。
日本の核武装にとって最大の障壁は、国民の非核感情です。広島と長崎を経験した日本人にとって核は戦後最大のタブーであり、アメリカの核の傘に入ることは黙認するけれど、自前の核を持つことは議論すら許されませんでした。
この強靭な非核思想が覆るには、「3つの条件」が揃うことが不可欠です。
1つめは、これまで述べた、核保有してもアメリカと敵対しないという「同盟と両立する安心感」です。トランプ大統領誕生でこの条件が満たされます。
2つめは、「十分な恐怖」です。冒険主義の北朝鮮は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験を成功させ、ミサイルに搭載できる核弾頭も20個ほど保有しているとされます。
日本の政権や官僚組織は、予測不能な北朝鮮をとても恐れています。金正恩が暴発して核を発射した際、周辺国がどう動くか読めない上、ミサイルの精度が悪くて思わぬところに着弾する怖れもある。この現実に基づいた恐怖が日本国民に広がれば、核武装への心理的ハードルは下がるでしょう。
日本の核武装にとって、最後の条件となるのは「プライド」です。これには、韓国が大きく関わります。
朴槿恵大統領の弾劾案が可決されて内政が混乱する韓国ですが、政治家の多くはタカ派です。軍は、金正恩ら北朝鮮の体制トップを一網打尽にする「斬首作戦」の用意として、韓国内に配備されたミサイルを臨戦状態にしています。政治の要請に応え、軍は説得力をもった対北強硬策を準備しなければならないからです。実際には、北朝鮮の核兵器をすべて破壊するのは無理ですから、先制攻撃はできず、抑止策でしかありません。抑止の効果も、北朝鮮の冒険主義をどう見るかにかかっています。