日々通いつめるうち、稽古の合間に演武を披露してくれるようになった。飛び上がった瞬間に空中で座禅を組み、少林棍(棒)の上で難なくバランスを取る。
「複数の武僧たちのアクションを撮影する時も、リハーサルなどせず、すべて1回で決まります。阿吽の呼吸でできてしまうんです。元々身体能力が高いうえに、座禅や瞑想によって無の境地に至る訓練をしている彼らは“失敗しない”のです」
普段は決して見られない僧侶たちの日常生活にも触れることができた。
「武僧たちは確かに厳しい稽古を積んでいますが、昼食のあとに軽く昼寝をしたり、35℃を超えるような猛暑のときには修行を見合わせることもあります。武術を理由に入門する若者が多いため平均年齢も低く、現場の判断が若手に任されている点も風通しの良さを感じました。
スマホを使ってSNSをし、武術着を今風に着こなす近頃の武僧たちですが、全員が出家して寺に残るわけではなく、田舎に帰って武術学校を開いたり、警察官になったり、俳優を目指す子もいます。日本と異なり、出家したら一生独身を貫かねばならない中国で、特に一人っ子政策世代ともなれば、家族も含めた大きな決断になるのは仕方がないでしょう」
中国のシンボルである嵩山少林寺は、伝統と革新の絶妙なバランスを保ちながら、現代社会での存在価値を世界中に発信しているのだ。
撮影■大串祥子
※週刊ポスト2017年1月27日号