映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、森光子主演の舞台『放浪記』に20年以上出演し続けた山本學が、森との共演の思い出を語った言葉からお届けする。
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森光子主演の舞台『放浪記』は上演二千回を超える人気公演であった。山本學は1987年から参加、以降、森が亡くなるまで出演を続けている。
「途中からの参加で、役柄を僕なりに作り変えたんですよ。
その前の人は、気持ち悪い、嫌な人間として演じていましたが、僕はそうじゃなくて。一生懸命なんだけど、その一生懸命さが女性にとっては嫌だ、と。そういう解釈で演じました。
演出の三木のり平さんからは『おい學ちゃん、違うよ。あの役はそんなにイイ奴じゃない。もっと気持ち悪い奴なんだ。お前、そんなに女に好かれたいのか』と言われましたが、僕にはできませんでした。森さんが『そういう風にやった人はいないから、それでいいのよ。押し切ってやってください』と人を通しておっしゃってくださったから、続けることができました。
『放浪記』は通行人役の人まで一生懸命にやっていました。少しでもダメだと降ろされちゃうんですよ。ですから、どんな小さい役でもみんな大事にしていて。それで、商業演劇として隙が無くなっていったと思います。
いい作品って、現場の雰囲気がいいんです。ですから、いい仕事をしようと思ったら、それに協力することです。隅々までみんなが『この作品をよくしよう』と思ってやったら、やはり違ってきます。我を張る人がいたら、よくならないです」
人気公演の座長を長年務めてきた森の気配りも、山本は近くで見てきている。