「夕ご飯の支度を手伝っている時に、おばあちゃんが2階から、本を手にワハハハハハって笑いながら下りて来たんです。それで『何、読んでるの? そんなに面白い本なら私も読みたい』って。私は普段は小説や漫画を読んでいて、それまでエッセイを読んだことはなかったのですが、読んでみるとやっぱり面白くて、ゲラゲラ笑い転げてしまいました」
そんな2人の姿に母・育子さん(44才)も興味を持って、すぐに本を読んだという。
「本を読んで、声を上げて笑うって、そんなにないと思うんです。でも、腹筋を使ってこんなに笑うの? みたいな状況を家庭の中で2人も見たら、私にも早く回してって言いたくなりますよね(笑い)」
本書には、90を超えた佐藤さんが感じる体の故障や進歩する時代への戸惑い、ニュースや新聞を見てこみ上げた怒りがユーモラスに綴られている。それを約80才も年下の詠乃ちゃんが読んで共感した部分はどこなのか。
「誕生日が2つある話や、犬のグチャグチャ飯の話も面白かったし、三越のトイレの話も笑いながら読みました。友達にも貸してあげたらやっぱり面白いって。佐藤さんと、うちのおばあちゃんが似ているなって思うところもありました(笑い)」
と祖母の顔を見て、詠乃ちゃんは照れ臭そうに話す。それに応えるように喜代子さんはこう語る。
「この年になると、ついつい言わなくていいことまで、口から出ちゃうんです(笑い)。きっといつも私の姿を見ているから、佐藤さんの書いていることがわかる部分も多いのでしょうね。詠ちゃんは、私を大事にしてくれるし、長生きしてねって日常茶飯事のように言ってくれるので、ありがたいと思います。子供ってすぐに大きくなりますし、この先、私もどれぐらいかかわれるかなって思いますが、この本を読んでも、年寄りには年寄りなりの役割があるんじゃないかなと思いますね」
その言葉に母・育子さん(44才)も大きくうなずいた。詠乃ちゃんが小さな頃から、「私が母にそうしてもらったように、本をたくさん読んでくれる子になってもらいたい」と思って、自分が小さな頃に読んだ本や、自分が面白いと思った本を詠乃ちゃんに薦めてきたという。
「それは漫画でもいいし、小説でも何でもいい。一生の出会いになればいいなあと思っています。この先、中学生になったら読ませようとか、いろいろ準備している本もあるんです(笑い)。それでもこの本のように、母も娘も私も一緒になって楽しんだ本はありません。母が佐藤先生の本を昔から好きなのは知っていましたけど、娘にもこういう佐藤さんの感覚がわかるんだって、ビックリしました。娘がここから、また新しい本の世界に飛び込んでくれたらいいなと思います」
この本に、詠乃ちゃんは今後、作文を書く上で参考になった点もあったとか。
「文章の勢いとか、熱量とか。です・ます調でないところも衝撃的でした。半年先になるか数年先になるかわからないけど、また読みたくなる本だと思います」
限られたスペースの中、『九十歳。何がめでたい』は竹下家の本棚にいつまでも残しておく本に決定している。本のある暮らしは、とてもめでたい。
※女性セブン2017年2月2日号